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【荻上健太郎准教授×立石真澄氏×堂上研】教育と親子のウェルビーイングを考える。守ってあげたい“子どもの領域”とは?

子どもとの関係性に悩む親は意外と多い。わが子の幸せを願うばかりに子どもに干渉しすぎてしまい、かえってウェルビーイングから遠ざかってしまうケースもある。「良い親でありたい」とは思いながらも、理想的な親になるのは難しい。

そこで今回は、東京学芸大学 教育インキュベーション推進機構の准教授・荻上健太郎さんと、メンタルヘルスカウンセラーとして親子に向き合ってきた立石真澄さんとのトークをお届けする。

子どものウェルビーイングをつくるための教育とは? 親と子がウェルビーイングな関係を築くためにはどうしたらよいのか、Wellulu編集部の堂上が話を伺った。

 

荻上 健太郎さん

東京学芸大学 教育インキュベーション推進機構 准教授(OECD日本共同研究プロジェクトリーダー/教育インキュベーションセンター)

新卒で民間財団に就職。NPO組織基盤支援、国際協力や海洋分野等の新規事業開発・政策推進支援、災害復興における企業連携の統括推進者などを務める。
NPO法人ETIC.が事務局として推進する社会実験プロジェクト「and Beyondカンパニー」に参画するなど、自らも副業や越境による新しい働き方に挑戦。現在は、東京学芸大学にて産官学連携や新規事業開発の基盤づくり等に取り組む。

立石 真澄さん

EAPメンタルヘルスカウンセラー

EAPメンタルヘルスカウンセラーとして企業間の人間関係に従事。また塾や学校などで親子、家族間のメンタルヘルスケアに20年以上携わる。

堂上 研 さん

Wellulu編集部プロデューサー

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。

親は“子不孝”になっていないか?

堂上:はじめに、それぞれのご紹介をお願いします。荻上先生は、東京学芸大学の教育インキュベーション推進機構でどのようなことをやられているのでしょうか。

荻上:東京学芸大学は学校で教える先生を養成する教員養成大学といわれております。その中で教育インキュベーション推進機構は、教育に関わる新しい取り組みを探究する基盤をつくり、外部との協働もしながら動いていく役割を担っています。

私は日本OECD共同研究にも携わっているのですが、OECDの取り組みとして「生徒の学習到達度調査(PISA)」があります。こういった調査は結果の順位に一喜一憂してしまいやすいですが、いわゆる国語・算数・理科・社会といった科目だけでなく、生徒や先生のエージェンシー(主体性だけでなく、周囲との関係性や互恵性、社会への向き合い方も含む概念)を重要視しています。これは世界的にも学習がウェルビーイングに繋がっているかを意識しているからなんです。

堂上:なるほど。本日は色々とお話を聞かせてください。立石真澄さんはカウンセラーとして親子と関わることが多いですよね。

立石:私は、家族関係に息苦しさを感じている方々と長年向き合ってきました。近年では相談者も若者、子供達が増えている状況です。

堂上:お二人の研究的な視点と、お二人ともお子さんがいらっしゃるということでひとりの親としてのお考えも伺っていけたらと思います。実は僕も含めて、全員子どもが3人いるんですよね。僕には高校1年生の女の子と、小学校6年生と4年生の男の子がいます。

荻上:うちは、中学2年生の女の子と、小学校4年生と2年生の男の子です。

立石:お二人ともまだまだ子育ての真っ最中ですね。私の子どもは、28歳・26歳・21歳の3人で、全員男の子です。働きながら子育てしている時期もありましたし、夫の海外駐在で海外で出産・子育てもしました。海外での子育ても大変でしたが、日本に帰ってきたら、改めて世間体を気にする空気感が息苦しいと感じるようになりました。

堂上:日本の教育界ではなぜそのようなことが起こってしまうのでしょう。

荻上:同調圧力が強いというのはよくいわれますね。保護者会や授業参観では、親は派手な格好をしないというのも、ひとつの例かもしれません。派手な服装をしてはいけないという決まりはないし、先生方もそれを強要していることはないはずなのですが、そういった空気感が出来上がってしまっていますよね。

立石:私が驚いたのは、一度夏に真っ赤なサマードレスで行ったら、息子に「大丈夫?」と驚かれたことです。親だけでなく、子どもも気にするんだなと驚きました。

堂上:そうなんですね。でもコロナ禍を経て、少しそういったことが減ったような気もします。コロナ禍以前は、誰がどの子の親なのかをみんなが知っている状態でしたが、今は保護者会にいる親がどの子の親なのかほとんど知らないんです。そういった親同士のコミュニケーションは、様々なところに影響を与えそうですね。

立石:カウンセラーとしてコロナ禍による変化で気になるのは、家族の中が外からどんどん見えなくなっていっていることですね。どんなに外で教育を頑張っていても、家に帰ったら何をしているかが見えにくい。親の支配力が強くなってしまっていて、親は正しいと思ってやっていることでも、子どもに息苦しさを与えていることもあります。

堂上:親が子どもに期待しすぎてしまっているのでしょうか。

立石:親が子どものためにやっていると思っていても、それは親自身の欲であることは多いです。よく親孝行しろとか、親不孝者にはなるなとか、親を大事にしろといわれますが、私は“子不孝”のほうがよっぽど問題だと思うんです。子どもは“未来”なのですから。親のために、子どもを我慢させるのは違うなと思いますね。

堂上:子どもたちは我慢しているのでしょうか?

立石:無意識のうちにですね。たとえば引きこもりや不登校の子がいて、よく話を聞いてみるとお母さんの唯一の話し相手だったり、両親の関係性が上手くいっていないケースだったりは少なくありません。そうすると無意識のうちに、子どもがお母さんのことを放っておけないという気持ちになっているんです。

ですから、お子さんではなくお母さんが楽しく自立できるように支援していくと、お子さんが少しずつ外へ出ていけるようになります。子どもは無意識的にバランスを取ろうとしているので、表面的な言動では測れないことが多いですが、親の影響によって無意識に我慢をしていることは多いです。親も社会的に苦しい思いをしていることもあるので、一概にどう変えていけば良いかというと難しいのですが。

堂上:親がなかなか子離れできていないということはありそうですね。荻上先生は今のお話をどう思われますか?

荻上:今、幸せな未来を生きるために、2030年をより良く生きるためにと、「未来」で子どもや教育を語ってしまうことが関係しているかもしれないなと感じました。親にとっても、教育に携わる先生にとっても、子どもの将来の選択肢を減らしたくないという恐怖感がある。だから、今の子どもではなく、将来のことを考えすぎて、色々と押し付けてしまうのかもしれません。

堂上:大人が勝手に描いた、こう成長していくとより良い人生を歩めるというのを当てはめてしまうんですね。でもそうやって目の前の小石を取り除き続けてしまうと、その子は小石につまづいたら立ち直れないようになってしまう。親が子離れできない結果、“子不孝”になってしまうということですね。

立石:今の時代、小石を退けても地殻変動で土が上がってくるかもしれません。そのくらいどんなことが起こるか分からない世の中なので、本能的な能力を付けないといけないように思います。

堂上:でも、僕も子どもに失敗してほしくない、幸せになってほしいという思いがあり、ついつい小石を取り除いてしまうことがあります。

立石:皆さんそうですよ。私もそうです。でもこれはどうだろう? もしかしたらやりすぎていないかな? と自問自答することが大切です。同じ過保護でも、やりすぎているかもと思いながらやるのと、自分は正しいと信じ込んでやるのとでは、親が子どもに与える見えないエネルギーが全然違うと思うんです。

これは私も今研究しているのですが、お子さんの体調などにも影響してきます。親もどうやって親になれば良いのか、教育を受けているわけではないですよね。だからこそ、自分が正しいと思い込まずに、考えながらやっていく必要があると思います。

堂上:ウェルビーイングについて過去の調査では、皆さんの困りごととして一番多いのが「人間関係」でした。なぜ人間関係が上手くいかないのかを考えてみると、人に自分の価値観を押し付けてしまう、相手から押し付けられてしまうということが大きいように思います。親子関係でも、親だからといって価値観を押し付けてしまうと、子どもはウェルビーイングにはなれないですよね。

子どもの秘密の領域には踏み込まない

立石:お子さんたちと話していると、親が悲しむ顔を見たくないなど、親を思いやっている子が多いんです。でもだからこそ、自分が親の期待とは違うことを考えてしまうのは良くないのではないかと悩んでいる。あれもダメ、これもダメと危険から回避されていることで、ありのままの自分が承認されていないように感じてしまいます。子どもは本能的な、秘密の自分だけの暗闇の領域を絶対持っていなくてはいけません。

堂上:放っておいたり、そのままの子どもを承認したりしてあげることが大切ですね。でもつい自分の子どものことになると、過保護に干渉してしまう。親がそうならないためには、どんなことを意識したら良いでしょうか。

立石:子どもが大きくなればなるほど、子どもの領域に入っていかないという意識は持つべきだと思います。自分の欲と、子どもの問題を一緒にしない。たとえば、子どもが宿題を忘れると学校まで届けてしまう親が多いんですね。しかし切り分けて考えてみると、子どもの宿題なのだから、忘れた時に怒られるのは子どもの問題ですし、責任も子どもにある。それを自分の問題として混ぜて考えてしまうケースが多いように思います。

荻上:宿題をランドセルに入れたかどうか確認するだけで良いのに、宿題の中身が合っているかどうかまで見ようとするなど、子どもの中の領域にまで入ってしまうことがありますよね。

堂上:線引きが出来たら良いけれど、どこからが入りすぎで、どこまでは入って良いのか、線引きが分からないということですね。

立石:カウンセリングにいらっしゃる方の中には、子どもが成長しても子どもの性的な話に干渉するとか、子どもが友人と話している内容を聞いてしまうとか、心配だからとGPSを付けていたりすることもあります。もちろん子どもが小さいうちは見守らなければいけないですが、年齢を重ねるとともに、子どもを信頼していかなければいけません。そういった親の過保護は、虐待にもなり得ますし、干渉しすぎて性的なことに全く興味を持てなくなってしまった子どももいます。子どもが秘密の領域を持つことは本当に重要なんです。

堂上:分かっていながらも、難しい部分ですね。僕も中学受験勉強中の子どもが隠れて夜中にYouTube動画を見ていることに怒ったりしました。僕のスマホだったのでロックされておらず、悪いサイトにいってしまうかもしれない、個人情報を抜き取られてしまうかもしれない。そういった危険性を伝えたら理解はしてくれたと思うのですが。

立石:もちろん危険性を説明してあげるというのは大切だと思います。でも子どもの秘密の領域に介入することとは全く別問題です。放任しすぎるのも良くないですし、親も悩みながら答えを探していくしかないですよね。また子どもによって何にショックを受けるかは様々です。自分の子どもであっても自分には理解できない部分がある、ということを理解しておいてもらいたいです。

親以外の多様な大人と出会う機会をつくる

堂上:親も常に学び続けて、考え続けなければいけないですね。学校などで「親学」を学べたら良いですよね。

荻上:少子化によって教室が余っている学校も多く、色々な形で学校の利用は広がってきてるので、学校という子どもと同じ空間をともにして、親が放課後に学ぶという機会がもっと広がっても良いかもしれませんね。

立石:親は自分の子どもがどうなるかについては関心を持つのですが、自分自身の子育てについてはあまり聞きたがらないんです。自分の子育てを否定したくないという気持ちがあるのですね。子育ての結果、子どもがどうなるかを伝えるなどの工夫が必要だと思います。

堂上:「親学」としてステレオタイプを押し付けてしまうのも、またウェルビーイングではなくなってしまいますし、難しいですね。

荻上:子どもは親だけでなく、様々な大人と密接な関係を持つ、というのも大切ではないでしょうか。そう思うと「担任の先生」は子どもに身近な存在でありながら、毎年のように定期的に変わるため複数の大人と関われる点で良いシステムだなと感じます。

堂上:確かにそうですね。東京で子育てをしていると、近所の大人と子どもとが触れ合う機会が少ないのが残念です。近所のおばちゃんに怒られるという経験も、大事だったように思います。

荻上:そうですね。今は集団登校も減っていますし、計画された機会以外での日常的な学年を超えた繋がりも減っているんです。地元のサッカーチームなど、親以外の大人や同学年のクラス以外の繋がりを持つことは大切ですよね。

堂上:息子はサッカーチームに入っているので、様々な親と接しています。また僕は頻繁に友人と家でご飯を食べるようにしていて、「お父さんは普段よくこう言っているけれど、この人は別のことを言っているな」とか、違う価値観や多様なものに触れ合うのは子どもにすごく影響を与える感じがします。

立石:良いですね。「混ぜる」という意識は、子どものウェルビーイングにとってポイントになると思います。

自分のありのままを受け入れる

堂上:ついつい、子どもの話になると、自分の子育ての悩み相談になってしまいます。最後に、お二人にとって、ご自身がウェルビーイングな瞬間は何でしょうか?

荻上:自分と違う考えや意見を受け入れられたときに、ウェルビーイングだと感じます。でもその直前には、それが受け入れられなくて葛藤してるんです。何かすごく深く突き詰めてとかではなく、ふと「たしかにな」と共感できたり、自分の中でそれを噛み砕いて理解し受け入れることができたりした時に、ウェルビーイングを感じますね。

立石:私は、生まれ持った資質を生かしきれている時に幸せだと感じられます。ウェルビーイングは「being」ですから、誰かと比べるでもなく、自分のままでいられること。私が私のままでいられているなと、ハッと感じられた時に、ウェルビーイングだと思います。自分が何に感動して、何に涙するのか。自分の心を感じられた時というのでしょうか。

堂上:お二方とも、自分の生き方を大切にしていらっしゃるので、そこから家族にもウェルビーイングな環境がつくられていくのですね。

立石:この間ご飯を食べに行ったら、たまたま隣に座った方が90歳のおじいさんが笑顔の溢れる方で、90歳なのにぱくぱくと天ぷら食べていて、とても素敵だったんですよ。おじいさんは私達のために何かしてるわけではなく、ご自身がウェルビーイングな状態だったと思うのですけれど、私もすごく幸せな気持ちにさせられました。

堂上:ウェルビーイングは伝播するんですよね。

荻上:私がウェルビーイングであるためにもうひとつ気をつけているのは、「こうじゃなきゃいけない」と思わないようにしているということです。たとえばぐうたらしていてはいけない、飲みすぎて次の日を無駄にしてはいけないなど思ってしまいがちなのですが、それも自分。立石さんがおっしゃるように「being」、ありのままの自分を受け入れるというのも大切だと感じています。

堂上:僕の母親も「人は人、自分は自分」とよく言っていて、僕がやりたいことをやっていいよと肯定してくれていました。それが僕のウェルビーイングに繋がっているのだと思います。お二人とお話ししていても、とてもウェルビーイングを感じることができました。本日はありがとうございました。

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