
社会性と経済性の両立。一見すると相反するこの2つの価値を同時に追い求める企業が、いま静かに増えつつある。その象徴ともいえるのが、「ゼブラ企業」と呼ばれる存在だ。
アメリカで生まれたこの概念を、日本に広めてきた一人が、株式会社Zebras and Company(ゼブラアンドカンパニー)の共同創業者・阿座上陽平さんである。
本対談では、マーケティングの本質に迫る「認知」の視点から、ゼブラ企業が生まれる土壌や可能性、さらには未来を見据えた事業のつくり方について、Wellulu編集長の堂上研が話を伺った。

阿座上 陽平さん
株式会社Zebras and Company 共同創業者・代表取締役

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
「認知」への興味が増すきっかけとなった原体験
堂上:Welluluでは、こうした対談を通してバーチカルなコミュニティをたくさんつくっていき、それを起点に事業や文化へと発展させていくことを目指しています。阿座上さんは、すでにそれを実行されているのではないかと感じて、ぜひお話を伺いたいと思っていました。本日はどうぞよろしくお願いします。
阿座上:こちらこそ、よろしくお願いします。
堂上:現在代表を務められている株式会社Zebras and Companyは、創業から5年目を迎えられたとのこと。それまでは、何をされていたんですか?
阿座上:出版社や広告代理店、コミュニティ運営会社、オウンドメディアの制作会社、さらに商品開発の専門会社など、さまざまな経験をしました。その後、それらを一括して手がける環境を求めて、製菓のスタートアップ株式会社BAKEに創業期から参加し事業責任者やブランド開発を担当。2021年にZebras and Companyを本格始動させるまでの3年間は、トランジションの期間として何をするかはあえて決めず、社会的意義のある会社を成長させるためのサポートなどをしていました。
学生時代の話をすると、中学・高校・大学と早稲田に通っていて、大学では商学部でマーケティングに強く惹かれるようになりました。同時に、クラブイベントの運営もやっていたのですが、宣伝の有無に関わらず集客に大きな差が出ることがとても興味深かったんです。カルチャーとビジネスが交わるところに、その再現性のヒントがあるのではないかと思い、その観点とマーケティングを組み合わせることをやっていきたいと考えるようになりました。
堂上:中高大一貫ということは、中学受験をされたのですね。勉強は大変でしたか?
阿座上:学ぶこと自体は好きでした。わからないことがわかる。その過程が楽しかったですね。
堂上:もう少し遡ると、どんな子ども時代を過ごされたのでしょうか。
阿座上:小・中学生の時はすごく太っていて。帰宅部で運動は一切せず、ゲームをしたり漫画を読んだりしていました。高校でラグビー部に入って、そこで一気に痩せたんです。大学では興味のある講義だけを受けて、夜中はクラブイベントに遊びに行ったり友達とお酒を飲んだり。ファッションやカルチャーが好きで、勉強と遊びが中心の学生生活でした。
堂上:ファッション関係の道に進みたいと思ったことはないのですか?
阿座上:ありましたよ。デザイン学校に進みたいな、と考えていた時期もありました。今もファッションが好きです。
堂上:そこからどうやって「ゼブラ」にたどり着いたのか不思議です。
阿座上:私のなかでは、すべて「認知」の話でつながっているんです。高校1年生の夏休みに、自分の「見られ方」が劇的に変化する経験をしました。それまでは太っていて暗いイメージを持たれていたのに、ラグビー部に入って一気に痩せたことで、周囲の態度が変わったり合コンに呼ばれたりして。中身は変わっていないのに、見え方が変わることで人からの扱いも変わる。
そんな体験が、もともと持っていた「認知」というものへの関心を一層深めるきっかけになりました。「ダサい」と言われていたものでも、少しデザインを変えるだけで印象が変わり、事業としての見え方や売上まで変化することもある。ファッションもそうですし、ブランディングやナラティブづくりにも通じる考え方だと思います。
堂上:なるほど。「認知」がビジネスや文化にまで影響を与えるということですね。
ゼブラ企業に学ぶ、共感が経済につながる時代の視点
堂上:現状をどう見るかという“視点”と、どんな社会をつくるかという“設計”は、似ているようで違いますよね。マーケティングとイノベーションも、近しい領域でありながら、現場ではなかなか上手く連動していない印象もあります。阿座上さんは、どのようにお考えですか?
阿座上:私のなかでは、イノベーションとマーケティングはほぼ同義です。マーケティングはプロモーションの領域だけではなく、プロダクト開発から利益設計、そして認知の仕組みまで含めた“全体設計”だと考えています。
「人を動かすか」「未来を作るか」という問いも、あまり分ける必要はなくて。むしろ、ビジョンを掲げて誰かを“動かそう”とするのではなく、自分たちが楽しそうにやっていれば、自然と人は集まってくる。そんな時代だと感じています。
堂上:巻き込まれたり影響を受け合ったりしながら、気づいたら一緒に動いていて、それがひとつの事業や文化になっていくんですね。
阿座上:そうですね。ただ、「楽しい」だけでは、人はなかなか動いてくれません。行動の背景には、動機となる“きっかけ”や“実利”も必要です。それは自ら行動するための理論かもしれないし、その結果にもたらされる利益かもしれない。そこは人によって違うと思いますが、そうした要素と上手く掛け合わせていくことが大事だと考えています。
堂上:おっしゃる通りだと思います。では、ここで改めて「ゼブラ企業」とはどういうものなのか、説明していただけますか?
阿座上:はい。まず、“社会性”と“経済性”を両立する企業のことを「ゼブラ企業」と呼んでいます。2017年に、アメリカのシリコンバレーの女性企業家たちが提唱した概念で、世界的に「ZEBRAS UNITE」というコミュニティもあります。私たちは、その日本支部として2019年にTOKYO ZEBRAS UNITEという活動主体を立ち上げ、さらに2021年に投資も行える組織としてZebras and Companyを立ち上げました。
空想の存在がモチーフである「ユニコーン企業」と対比して、白と黒の縞を持つ実在の動物“シマウマ”をメタファーに、現実的で共存的な企業像を象徴しています。
堂上:初めてその考え方をお伺いしたとき、とても共感しました。マーケティング学者のフィリップ・コトラーも、まさに社会性と経済性の両立を重視していますよね。
「CSV(※)」という言葉も話題になりましたが、社会に与えるインパクトを探求すべきなのに、経済的な面しか見られなくなって投資家がついてこないという話もあります。その課題は、どう乗り越えられると思いますか?
※CSV(Creating Shared Value):「共有価値の創造」を軸とした経営。共有価値=経済的価値と社会的価値の両立。
阿座上:そもそも「すべての企業が成長すべきか?」という問いから始めるべきだと思います。必ずしも全ての起業家がVC(ベンチャーキャピタル)から資金調達をする必要もないし、全社が急成長を目指すべきでもない。それぞれのやり方や応援のかたちがあるというのが前提です。
社会性と経済性を並列させるからやりにくいだけではないでしょうか。社会性は長期戦略で、経済性は短期戦略。長期戦略がないと経営しづらいし、短期戦略で利益が出せないと長期戦略も成り立たないので、単純に“両方必要”なんです。
ただ、「社会性」と言ってもふわっとしがちなので、会社ごとに守りたい価値や残したい文化を言語化していくことが重要だと思います。
堂上:なるほど。僕が世の中をウェルビーイングにする新規事業をやろうと決めた際には「ウェルビーイングとビジネスは両軸で語れない」という意見も出たのですが、ウェルビーイングになれば経済性は後からついてくるということを信じて、事業を立ち上げました。その考え方とも重なりますね。
阿座上:そうですね。まさに、私たちの取り組みも壮大な社会実験のようなものです。長期的に続くかどうかや全世界的なダウントレンドを解決しているかまではわかりませんが、一部ではある程度成し得ていると思います。
堂上:この『インパクトジャーニーレポート』に書かれているような会社ですね!

堂上:これを拝見したときは目から鱗でした。自分が目指していたものがより鮮明に言語化されていて感動しました。
阿座上:SNSやブログに感想を投稿してくださる方もいて、反響を実感しています。
堂上:ただ、世の中ではまだまだ経済的な成果ばかりが評価されがちです。社会的インパクトをどう数値化し、別のベクトルで伝えていくかが課題ですよね。
阿座上:そうですね。現在の評価軸は主に「時間」と「お金」ですが、私はそこに“もうひとつの軸”を加えたいと考えています。ただ、3つ目の軸は共感者が限られるため、見えづらく評価されにくいのだと思います。
堂上:コミュニティの数や広がりも成果のひとつだと思いますが、あまり表に出てこない印象です。
阿座上:発信していないわけではなく、こちらから見に行かないと見えてこないだけで、気づかれにくいのかもしれませんね。発信力の強化は今後のポイントだと思います。
堂上:このレポートに登場する企業は、エコシステムとして機能しはじめているのでしょうか。
阿座上:兆しは見えています。自社のロジックモデルが明確に言語化できている企業ほど、軌道に乗り始めている印象です。
“共助”から生まれる、日本に根づく循環型の経営とは?
堂上:「ゼブラ企業」は、どこかが認定しているのではないのですよね。
阿座上:はい、認定制度はありません。私たちの考え方に共感してくれたら「ゼブラ企業」と名乗ってもらって構いません。
堂上:そのような企業は日本でも増えてきているのでしょうか。
阿座上:注目が集まることで、自認する企業は増えています。ただ、もともと日本にはゼブラ的な企業が多かったとも思います。社員がウェルビーイングであることでイノベーションが生まれ、それが市場価値になるという循環がある企業は昔から存在していました。
堂上:資金調達など、経済的にも上手くまわり始めているのでしょうか。
阿座上:経済面では、これからが本番だと思います。いわゆるベンチャーキャピタルからの資金調達ではなく、ユニークな方法で資金を集めている企業が多いですね。
たとえば、香川県三豊市の仁尾町では、地域の後継者や起業家たちが互いに100万円ずつ出資し合って、株主になるという取り組みがあります。上手くいけばリターンもありますし、コミュニティ内でリスクと関係性を共有する仕組みです。
堂上:資本を持つ人たちが、事業に共感して出資するだけでなく、相談役など仲間として関わるようなイメージですね。
阿座上:はい。もちろん共感もありますが、彼らはその「人」を応援している感覚に近いです。遊び心を持ちながら、楽しんで未来をつくっているのだと思います。
堂上:なるほど。Zebras and Companyも、そうした“応援型”の出資をしているんですか?
阿座上:私たちは応援もありますが、ファイナンスの実験と社会実験を掛け合わせて、株主として一緒に経営にも関わっていくことを前提とした出資をしています。
堂上:出資以外では、どのようなビジネスモデルで運営されているのでしょうか。
阿座上:伴走型のコンサルティングフィーが日常的な収益です。私たちはゼブラ企業を「子ゼブラ」「兄ゼブラ」「親ゼブラ」と3つに分類しています。最近は、大企業で長期的な視野を持っている「親ゼブラ」とのプロジェクトが増えてきています。一方で「子ゼブラ」には資金調達を一緒に進めて、その成功報酬をいただくモデルが増えています。
堂上:「子ゼブラ」などのスタートアップに対しては、顧問のような役割なのでしょうか。
阿座上:はい、短期的なCMO(Chief Marketing Officer)やCFO(Chief Financial Officer)的な立ち位置ですね。
堂上:そのシステムがうまく回ると、小さなコミュニティが生まれて、まるでみんなが共同経営者のようになる。まさに僕たちが目指していることです。
阿座上:株主として関わるということは、経営者の心理的安全性や能力を最大化するためのサポートをするという役割もあると思います。そうすれば、結果的に会社の構造が変わり、社員のウェルビーイングにもつながる。私は“経営者”というレバレッジポイントを起点に、社内外ともにウェルビーイングを広げていきたいと考えています。
堂上:本当に素晴らしい仕掛けですね。
日々のリサーチに、発見と検証の楽しさを感じて
堂上:阿座上さんの普段の生活についてもお伺いしたいのですが、いま何をしているときが楽しいですか? 最近、新たに始めたことがあれば教えてください。
阿座上:次の計画に向けたリサーチをやっていることが多いのですが、現場に行ったり仮説を立てたりして、新しい発見や検証ができるのが楽しいですね。
最近では、東洋医学とマーケティングを組み合わせるプロジェクトに取り組むなかで、東洋医学について学びました。ChatGPTに東洋医学の知識をインプットして、私の状態を判定させ最適な漢方を提案してもらったのですが、それを飲んだら朝の目覚めが良くなって驚きました。
堂上:興味深いですね! ChatGPTの活用法には占いなどもありますよね。
阿座上:じつはChatGPTで四柱推命も試してみたことがあるんです。そこに書いてある内容が、まさに今の自分の状態や取り組みと一致していて、ちょっとびっくりしました。
堂上:すごい……! ウェルビーイングには自分自身や自然と対話する“余白の時間”も大切だと言われていますが、そのような時間や習慣は意識していますか?
阿座上:私は基本的に車移動なので、帰り道は一人の時間なんです。その時間を活かして、毎日1時間ほど、今日の振り返りや明日は何をしようか考えています。ほかにも週2回ジムに通ったり、漢方を飲んだりといったことは、最近の習慣になっていますね。
堂上:朝の目覚めが良くなったという漢方ですね! 新しいことを始めると、ウェルビーイングを感じる人が多いのですが、阿座上さんもそういった挑戦を大切にされているのかなと感じました。今後も、新しいことをどんどん始めていきたいと考えているのでしょうか。
阿座上:そうですね。これまでしてこなかったけれど、必要だと感じることには取り組んでいきたいと思っています。たとえば初歩的なことですが、私はけっこう人見知りなので、もっと人と話すようにしよう、とか。
堂上:えっ、意外です! 人見知りには見えませんでした。大学時代にクラブへ通っていたなら、積極的に人と関わっていたのかと思っていました。
阿座上:そう見せるのが上手なだけで、実際は人見知りなんです。クラブでも、参加者というより“仕掛ける側”の立場だったので、自分がつくった場が盛り上がっていれば、それで満足というタイプで。
堂上:物事を俯瞰して見ているんですね。サッカーでいうとプレイヤーよりも監督タイプかもしれませんね。
構造を見つめ、仕組みをつくるという発想
堂上:今後、どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?
阿座上:日本は、このままでは今の暮らしを維持できないと感じています。エネルギーが枯渇し、人口は減少し、気候変動で食糧の生産方法も変わる。その現実に対して、どのように「持続可能な打ち手」を講じるかで未来は変わると思っています。
日本は、エネルギーのほか、食糧も肥料ベースから考えれば80~90%が輸入に頼っているとも言われています。だからこそ、どれだけ自立的な仕組みをつくれるかが重要だと考えています。
堂上:その実現には、多くの人の知恵や力を巻き込んでいく必要がありますよね。
阿座上:はい。ただ、私たちのスタンスとしては、巻き込むというより、「巻き込まれる」ことでその人たちの“挑戦”が上手くいけばいいという考え方です。やりたいことを持っている人たちを、相互につなげられるポジションにいるので、つながりをどれだけ強くするかが肝です。
堂上:いろんな場所へ足を運ばれているんですか?
阿座上:紹介でつながることが多いですね。たとえば地方で登壇イベントがあって、現地で一緒に食事をしながら話すうちに友人になっていく。そうして地域への理解が深まることで、次のつながりが生まれていきます。
堂上:私自身もWelluluでの対談を通して、その方の生き方や価値観に触れ、したいと思う方が出てくるような連鎖をつくれたらと思っていたので、すごく共感できました。
阿座上:メディアって、実は運営側こそが一番学べる場所だったりしますよね。だからこそ、やる意味があるんだと思います。
堂上:では最後に、社会性と経済性の両方をまわしていきたいけど、なかなか経済がついてこない……という事例も多いなかで、最初の一歩として大事なことは何だと思いますか?
阿座上:まず必要なのは「構造の理解」です。目の前の課題を頑張って解決しようとしても、構造を無視していては意味がないこともあります。やりたいことに経済性がついてこないのであれば、そもそもお金がまわる仕組みを自分たちでつくる必要があります。
社会性と経済性は必ずしも同時に両立するものではなくて、先に経済性をつくり、その後から社会性が加わってくるケースもある。あるいは、NPOのように寄付で運営する形もあるでしょう。いずれにせよ、自分たちに合った「仕組み」を考えることが大事です。
堂上:そのような事例は、海外に多いのでしょうか?
阿座上:はい。欧州などでは多数の先例があります。しかし、日本にもたくさんあると思います。ただ英語になっていないから見えていないだけ。まずは、自分たちがすでにできていることに、自信を持つこと。それが最初の一歩になるのではないでしょうか。
堂上:「ゼブラ企業」について学び、自社の現在地を把握して、「これならできそうだ」と思えることから動き出す。その積み重ねが、未来を変えるのだと感じました。本日は、貴重なお話をありがとうございました!
堂上編集長後記:
ゼブラ企業が日本からどんどん出てきて欲しい。阿座上さんと出逢って、僕らECOTONE社が目指す方向と全く同じだと感じることができた。
共存がベースにあり、社会性と経済性の両方を求める企業は、どんどん出てくるだろう。ユニコーンではなく、ゼブラを目指す。僕の起業もそこが原点にある。
大きな挑戦は、たくさんの人たちを巻き込んでいく。そんなゼブラ企業をWelluluでもどんどん紹介していきたい。一緒にゼブラを増やしていきましょう。
阿座上さん、どうもありがとうございました。
早稲田大学商学部卒。メディア企業、デジタルエージェンシー、スタートアップなど事業の立ち上げや成長に貢献。社会課題の解決と自立的経営の両立を目指す「ゼブラ」の考えに共鳴し、2021年に3名で株式会社Zebras and Companyを創業。
https://www.zebrasand.co.jp/