
「テクノロジーのちからで日本をより強い国にしたい」。そう語るのは、NECソリューションイノベータ株式会社の執行役員常務である、石井正彦さんだ。
子ども時代をアメリカで過ごし、グローバルな視点を育んできた彼が描く日本の未来。その視点は国内に留まらず、世界とどう向き合い、テクノロジーをどう駆使して社会を変革していくかという大きなビジョンに基づいている。
彼が目指す社会の実現には、NECソリューションイノベータ社員一人ひとりのウェルビーイングも欠かせない。「自由な働き方」や「積極的な挑戦」を実現するために、どんな方法で企業文化を変革し、社員との距離を縮めているのか。Wellulu編集長の堂上が話を伺った。

石井 正彦さん
NECソリューションイノベータ株式会社 執行役員常務

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu編集長
1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
グローバルな視点で見つけた日本の強み
堂上:今日は石井さんご自身のことから、NECソリューションイノベータでの取り組みまでざっくばらんに伺えたらと思います。どうぞよろしくお願いします!
石井:こちらこそ、よろしくお願いします。
堂上:早速ですが、石井さんの幼少期まで遡ってもいいですか? どんな子ども時代を過ごされたのでしょうか。
石井:父の仕事の関係で、小学校5年生から中学3年生までの4年半、アメリカで過ごしました。当時は現地でも日本人一世はとても珍しがられていたので、自然と自分のアイデンティティについて考えることが多かったですね。
この経験が、私の価値観の礎になっています。NECソリューションイノベータに入社したのも、外から日本を見たときに「日本って素晴らしい国なのではないか」と気づいたからでした。日本人であることを誇りに思いながら、日本をもっと強くするグローバルな仕事がしたいと思ったんです。
堂上:そうだったんですね! 僕も高校時代に留学をして日本と海外とのギャップを感じた経験があるのですが、その気づきを10代前半で得られたのはすごいですね。ちなみに、NECではなくNECソリューションイノベータを選ばれたのは、どんな理由があったのでしょうか?
石井:より技術に特化して、自分自身のアイデンティティを確立したかったからです。グローバルな舞台で仕事をするうえでは、「Who are you?」と聞かれたときに、技術者として「自分はこういう技術を持っている」と明確に答えられることがとても大事だと考えていました。
また、規模の大きすぎる企業よりも、比較的コンパクトな組織のほうが早くグローバルなチャンスが巡ってくると思ったんです。実際、入社1年目から海外出張の多い部署に配属され、それ以来ずっとグローバルに関わる仕事を続けています。
堂上:子どもの頃からアイデンティティについて深く考えていたからこそのキャリア選択だったんですね。駐在経験もされていたんですか?
石井:はい、8年間ドイツに駐在して、NECの「スーパーコンピュータ」の販売をしていました。日本の最先端技術をお客様に届ける仕事で、お客様からは感謝されることも多く、「自分が日本の技術を代表して世界に広めている」という実感があってすごくやりがいを感じていましたね。
ドイツに住んでいたとはいえ、お客様はヨーロッパ全域にいたので、常に出張続きでしたが、その経験が自分を大きく成長させてくれたと感じています。
堂上:幼少期も社会人になってからも、海外から日本を見ることが多かった石井さんが感じる「日本の魅力」とは、どんなところでしょうか?
石井:まずは「真面目で勤勉」な国民性ですね。アメリカにいた頃、日本の学習内容のほうが進んでいたので、現地の友人に算数を教えることもよくありました。「日本人は優秀だね」と言われることも多かったですよ。
堂上:リスペクトし合える素敵な関係だったんですね。お互いを気遣える環境っていいですよね。
石井:はい。日本に帰国するときは、クラスメイトがこれでもかというほどたくさんパーティーを開いてくれました。
それに、大人になってから気づいたことですが、日本の「相手を思いやる気持ち」は本当に素晴らしいと思います。最近では「協調的幸福感」といって、思いやりのなかで幸せを感じるという価値観も注目されていますが、日本にはもともとそうした文化が根付いているんですよね。たとえば災害時などの助け合いも、日本ならではの行動です。
堂上:本当にそうですね。ただそれは、日本にいると当たり前すぎて気づきにくい。僕自身もそうでしたが、異文化に触れたり多様な人たちと触れ合ったりするからこそ、そうした良さに気づけることもあると思います。
垣根を越える対話で多様な声が響き合う
堂上:石井さんは、どんなときにウェルビーイングを感じますか?
石井:たくさんありますが、たとえば社員のみんなとカラオケに行くのが好きです。
堂上:カラオケですか! 意外です(笑)。
石井:立場上、どうしても社員との距離が生まれがちなので、日常的に対話の機会を大切にしていて。カラオケはその手段のひとつなんです。歌うのは得意ではないですが、できるだけ最新の曲を歌うようにしています。たとえば、Mrs.GREEN APPLEとか。
堂上:すごい! 最近の曲って難しくないですか? 僕は全然歌えません……。最近も家族でカラオケに行ったのですが、子どもたちが歌う曲が全然わからなかったです。
石井:すごく難しいので、めちゃくちゃ努力してます(笑)。ただ、頑張って歌ってみると、みんなすごく親近感を持ってくれるんですよ。「石井さんってこんな一面があるんだ!!」とよく驚かれます(笑)。そこから自然と距離が縮まるんです。
堂上:なるほど。まさにコミュニケーション術ですね。そして、社員や仲間との関係をより近づけることに、普段から努力されていることはすごいです。
石井:はい。社員との交流は大切にしていて、最近は地域を回りながら社員のキャリア形成についての対話会議などもしています。中間管理職を通さず、社員自身に「会社の改善すべきところ」を言ってもらうこともあるんですよ。
みんなでカラオケや対話をしているときはウェルビーイングを感じますし、社員も同じように感じてくれているんじゃないかと思います。
堂上:素晴らしいですね。ウェルビーイングな組織を実現するには、「部下が上司に言いたいことを言える」ことが欠かせません。石井さんは、カラオケという手段や、対話を通じてそれを実現しているわけですね。
石井:ほかにも、システム開発を依頼してくださったお客様が、我々が納入したシステムに満足して感謝を伝えてくれるときや、社会をテクノロジーのちからで支えている実感が湧いたときも、すごく喜びを感じます。これは私だけではなく、社員全員が感じていることだと思います。
堂上:お話を聞いていると、石井さんが本当に仕事を楽しんでいることが伝わってきます。社員やお客様との対話は、新たな気づきを得るためにも重要なことですよね。僕もWelluluを通じて多くの方と話をさせていただいていますが、毎回学びが多いです。この時間が僕にとってのウェルビーイングです。
石井:人と話すことでエネルギーをもらえる感じがしますよね。たとえば、自分のなかにウェルビーイングゲージがあったとして、それを常にMAXに保つのは難しいですが、違う価値観を持つ人と出会ったり話したりすると、そのゲージが満たされるイメージです。ちなみに今はMAXです!
堂上:それは良かったです!NECソリューションイノベータのみなさまは、2月20日に実施した「ウェルビーイング共創」のイベントにご参加いただき、こういう場を創ることができました。ご縁でつながっていくのは嬉しいです。
石井:人と人のつながりは、パワーを生みますからね。そこに日本特有の文化である「思いやり」が加われば、さらに強い国になれると思います。
「視線は外向き」。自由な働き方と挑戦を推奨
堂上:石井さんは仕事も楽しんでいらっしゃることがわかりましたが、仕事がないとき、オフの日はどのように過ごされていますか?
石井:一番多いのはゴルフですね。仕事で行くこともありますが、趣味として楽しんでいる時間でもあります。あとは旅行かな……。長年海外にいたので、国内旅行をあまり経験できていなかったんです。最近はいろいろなところに行っています。
堂上:いいですね! 石井さんの生き方そのものが、本当に充実していることを感じますし、企業の経営者がウェルビーイングを実践されていることがよくわかります。
石井:休みは意識的に作るようにしています。最近は、日本でも働き方改革が話題になっていますが、海外ではもっと自由な働き方が一般的です。たとえば、16時くらいに仕事を切り上げて、家に帰り、子どもと過ごしたあとに再び仕事をする、というスタイルが普通なんですよ。日本でもそんなふうに柔軟な働き方が広がるといいなと思っています。
堂上:実際、NECソリューションイノベータでも、積極的に風土改革に取り組まれていると伺いました。
石井:そうですね。私たちはテクノロジーを活用して、柔軟な働き方を実現しています。新型コロナウイルスが流行する前から環境の整備を進めていたので、今ではそれが当たり前の文化として根付いています。
また「人的資本経営」という言葉があるように、会社の価値を高めるには、社員一人ひとりが成長し、やりがいを持って働ける環境、つまりウェルビーイングが重要です。そのために、現場の声を大切にし、納得感のある改革を進めています。
2025年は創立50周年という節目にあたり、昨年立ち上げた『きらねすプロジェクト』をより強化して、さらに大きな変革に挑んでいるところです。変化の時代に対応するためには、「変革」と「レジリエンス(しなやかな対応力)」の両方が必要だと考えています。変わり続けるためには、無理なく柔軟に対応できるちからも同時に育てていくことが大切です。

堂上:会社全体で新しいことにチャレンジし続けていく姿勢は素晴らしいですね。こんなにもウェルビーイングな社員をつくろうとしている企業に出会えて嬉しいです。
石井:失敗を恐れる気持ちも理解できますが、失敗が大きな成功に繋がることも多いので、失敗しないことを目的にするのは違うと考えています。だからこそ、社員には積極的に新しい挑戦をしてほしいですね。
堂上:挑戦できる環境、失敗に対しても寛容であることって大切ですよね。さらには、どんどんいろいろなコミュニティや社会に出向くことも重要です。例えば、働き方でいうと、会社以外のコミュニティに出向く、副業なども推奨されているのでしょうか?
石井:はい。登録は必要ですが、兼業も推奨しています。越境することで新しい価値を生むことはよくあります。NECグループでは「視線は外向き」という行動基準を掲げ、社員にも外部の視点を意識してもらっています。
堂上:大事な視点ですね。海外での経験と通じるものを感じます。どんどん、挑戦を受け入れる会社が増えると、日本からもっとウェルビーイングな事業が生まれるように思います。
テクノロジーのちからで、日本をウェルビーイング先進国に
堂上:NECソリューションイノベータでは、新規事業にも積極的にチャレンジされているんですよね?
石井:はい。少しずつですが、今まさに新たな挑戦をしているところです。たとえば、ヘルスケア分野に特化した子会社を立ち上げ、病気になる前の段階で人々の健康を守るサービスを届けようとしています。そこにはテクノロジーのちからが不可欠ですし、新しいことに取り組むには投資が必要ですから、会社としても、支えていきたいと考えています。
堂上:ちなみに……気づいてしまったのですが、石井さん、スマートリングをされていますよね?
石井:はい、よく気づきましたね(笑)。これ、本当に快適なんですよ。ヘルスケアサービスに携わる立場として、まずは自分の健康管理が大事だと思って。スマートウォッチも使っているのですが、寝るときに違和感があって……このリングなら寝ている間も気になりません。
堂上:スマートリングで取得したデータは、実際に活用されていますか?
石井:特に意識しているのは「睡眠」です。忙しかったり飲み会が続いたりすると、どうしても睡眠時間が短くなって体調に影響が出ますよね。それがデータとして可視化されるので、「今日は早く帰ろう」とか「休肝日にしよう」といった行動につながっています。
堂上:やっぱり「可視化」って大事ですね。あと、データを通して、自分自身を客観的に見ることができます。
石井:まさに、そこが我々の提供するサービスの価値だと思っています。未来の健康状態を予測し、可視化することで、「今この行動を変えれば、将来こうなりますよ」という気づきを与え、行動変容を促す。そういうサービスを目指しています。
堂上:じつは「睡眠」をテーマにしたコミュニティを立ち上げようと考えているんです。スマートリングのようなウェアラブルを使って、みんなで“睡眠上手”を目指す場にしたくて。
石井:それはおもしろいですね!
堂上:僕、昔は平均3〜4時間しか寝ていなかったんです。「ナポレオンだって3時間だったから、自分はこれでも大丈夫」と思っていました(笑)。けれども、睡眠の専門家に「それ、睡眠が“下手”ですね」と言われたんです。「上手・下手」という表現がおもしろいなと思って。睡眠はスポーツや勉強と同じで学べば上達するものらしく、それをもっと広めていきたいんですよ。
石井:重要なのは、客観的なデータで自分の状態を知ることだと思います。そして、それをどう受け止め、どう行動につなげるかがポイントですね。
ただ一方で、ウェルビーイングを実感するには「主観的なウェルビーイング」も欠かせません。たとえば、「お酒が睡眠に悪影響を与えているから控えよう」というのは“客観的なウェルビーイング”の観点です。一方で、「仲間と飲んで楽しい」「会話が弾んで幸せを感じる」といった気持ちは、“主観的なウェルビーイング”に関わる部分です。
今、私たちが提供しているサービスの多くが“客観軸”に基づいていますが、今後は“主観軸”にも寄り添いながら、その人それぞれの価値観に合った選択肢を提示できるようにしていきたいと考えています。そして、そうしたウェルビーイングをテクノロジーのちからで支えていくのが、私たちの目指すところです。
堂上:まさに! 僕らも、生活者に新しい価値を提供しながら、少しだけデータをいただき、それを分析してまた新しい価値を生む。その循環によってウェルビーイングな社会をつくることを目指し、エコトーン社を立ち上げました。ステークホルダーと“共創(Co-Creation)”していく発想です。
石井:ぜひご一緒させてください!
幸せを実感できる国へ。日本の可能性を引き出していく
石井:最近「健“幸”寿命」という言葉も広まっていますよね。日本は、平均寿命や健康寿命といった客観軸の寿命は世界トップクラスなのに、幸福度ランキングでは下位なんです。つまり“主観的な幸せ”を感じられていない。
でも、主観的なウェルビーイングに必要なものは、すでに多くの人のなかにあるんじゃないかと思うんです。それを引き出すことができれば、「日本って本当は幸せな国なんだ」と、もっと実感できるようになるはずだと。
堂上:本当におっしゃる通りですね。僕らが当たり前に感じていることって、外から見るとすごく魅力的だということもありますしね。
石井:実際、日本で一緒に仕事をした海外の人たちは「また来たい」と口を揃えます。それだけ日本には素晴らしい要素がある。ただ日本人自身がその価値に気づいていないことが多い。だからこそ、テクノロジーのちからで“幸せを実感できるサービス”を創っていきたいんです。一緒に日本をウェルビーイング先進国にしましょう!
堂上:最後に、未来について伺わせてください。個人として、または会社として、これからどんな社会をつくっていきたいと考えていますか?
石井:そうですね。今は地政学的な課題も多く、世界全体がやや暗いムードに包まれているようにも感じます。私たちNECグループは「安全・安心・公平・効率」といった価値をテクノロジーのちからで持続的に届けていくことが大切だと思っています。どんな時代でも、誰もが安心して暮らせる社会をテクノロジーで実現していく。それが私たちの想いです。
そのなかでも特に、「ウェルビーイングな社会をつくりたい」という想いは強くあります。それは私個人としての思いでもありますし、会社としても今まさにその方向に進んでいます。
これまでの時代は「人口が増えればGDPが上がって、それが幸せに繋がる」という考え方が一般的でした。でも、社会が成熟してきた今、幸せのかたちはもっと多様で、個々人に寄り添ったものになっていくべきだと思うんです。私は海外での仕事を通して、特にヨーロッパの成熟した社会モデルに触れてきました。その視点から見ると、日本にはまだまだ素晴らしい可能性があると感じています。そうした日本の良さをもっと引き出せる社会をつくり、支えていきたいと強く思っています。
そしてその実現には、やはりテクノロジーのちからが欠かせません。我々はテクノロジーの領域から取り組みますが、それ以外の分野の企業とも共創しながら進めていきたいですね。
堂上:お話を伺っていて、会社としての想いと、ご自身の内なる想いが重なっているのを強く感じました。アスピレーション(内なる想い)が、会社のパーパスと重なる経営者が、未来を変えていくように思います。Welluluにご登場いただいているみなさんも、遠い未来のビジョンを自分ごととして行動されています。石井さんもまさに“すぐ行動される方”だなとすごく思いました。
石井:ありがとうございます。まさに当社の企業メッセージでもあるんですが、「いつかを、いまに、変えていく。」。”いつか”じゃなくて、それを”いま”にできたら素晴らしいじゃないですか。そんな気持ちで日々取り組んでいます。
堂上:素晴らしいメッセージですね。会社の受付でこのメッセージに出逢い「テクノロジーを通して、今日の自分が成長し、たくさんの『できる』が生まれる」と感じました。
石井:ちなみに、当社Webサイトには二人で手でフレームを作り、その先を覗き込んでいる写真を載せているのですが、じつはこれ、一人ではできないんですよ。誰かと一緒だからこそ、“未来”を見ることができる。それを「いま」から一緒につくっていこう、というメッセージを込めているんです。
堂上:これ、二人の手だったんですね! 気がつきませんでした。石井さんの熱い想いに触れ、心から共感しました。ぜひ一緒にウェルビーイングな未来を切り拓いていきたいです。本日は素晴らしいお話をありがとうございました!
1990年にNECソリューションイノベータ株式会社の前身である日本電気ソフトウェア株式会社に入社後、ドイツに8年間駐在し、システムアーキテクトとして、欧州における気象、気候、航空、宇宙分野におけるナショナルプロジェクトに多数参加しながら、成熟社会のあるべき姿に触れる。2011年からは、経済成長著しいベトナムに3年駐在し、東南アジアにおける日本のリーダーシップを発揮すべく、デジタル技術の普及に専念。「誰もが自分らしく生きられる社会をつくりたい」を思いに、2020年にヘルスケアベンチャーのFonesLife社を立ち上げ、ヘルスケア事業に注力。21年よりNECソリューションイノベータ株式会社の執行役員常務として、国、自治体、医療機関向けの社会基盤事業を担当。中央大学国際情報学部教員を兼務。