二酸化炭素削減のために、再生可能エネルギーの導入は世界的課題。しかし、私たちの日常風景に大規模な発電施設が溶け込むまでには、高い心理的な壁がある。「自然環境への影響は?」「地元にメリットはあるのか?」──そうした生活者の素朴な疑問に対し、単なるインフラ整備としての説明だけでは、真の納得感には至らないだろう。
今回は、全国各地で地域に根ざした再生可能エネルギー事業を展開するENEOSリニューアブル・エナジー株式会社地域共創推進部 部長の清水雄大さんにインタビュー。なんとなくの不安を解消し、私たちが暮らす街とエネルギーの建設的な関係を築くための具体的なヒントを伺った。
この記事の監修者

清水 雄大さん
地域共創推進部長
なぜ今、地域と連携したエネルギーづくりが必要なのか?

再エネは遠い存在?住民が抱くリアルな不安
── 生活者の正直な感覚として、再生可能エネルギーという言葉には賛成できても、いざ「自分の住む街に大規模太陽光発電所や大規模な風車ができる」と聞くと、どうしてもネガティブなイメージを持ってしまう人もいると思うんです。
清水さん:おっしゃるとおりですね。実際、私たちが開発のために地域に入っていく際も、最初から歓迎されることばかりではありません。地域の方は「自然が壊されるんじゃないか」「景観が変わってしまう」など不安の声も届きます。
再生可能エネルギーという言葉は知っていても、自分の生活圏に入ってくるとなると、みなさん「得体の知れないもの」に対する不安を感じられます。それは生活者として、極めて健全で当然の反応だと思います。
── 具体的には、どのような不安の声が現場では届きますか?
清水さん:そうですね……風力発電であれば、やはり音と景観への懸念です。「風車が回る音がうるさいんじゃないか」「長年見慣れた山並みや海に、大規模な人工物ができるのは嫌だ」という、意見をいただくこともあります。
── そうした声に対して、事業者はどう向き合っているんですか?
清水さん:大前提として、再生可能エネルギーはその地域の風や太陽光、そして土地という、地域固有の資源を使わせていただいて初めて電気を作れる事業なんです。
地域の資源をお借りして、20年、30年という長い期間にわたって事業をさせていただくために、まずは、地域の方の不安を取り除くための丁寧な説明を心がけています。地域の人々との合意形成や信頼関係がなければ、発電所は建設できませんし、何かトラブルがあったときの対応も収束しやすくなります。
だからこそ、私たちは地域の一員として認めていただくことから始めなければなりません。
科学的な対話と、地道なご近所付き合い
── 具体的には、どうやって関係を築いていくのでしょうか?
清水さん:まず不安に対しては、科学的根拠を持って丁寧に答えて、信頼感を醸成しようとしています。たとえば騒音については「100メートル離れた場所での風車の音は、電車が走る音と比べてこれくらいです」と示して、事実をごまかさずに説明を尽くします。
── 納得できるまで対話を重ねるということですね。
清水さん:ええ。それに加えて、もっと情緒的なつながりも大切にしています。地域共創推進部という専門の部署を立ち上げたんですが、そこでは地域の行事に参加したり、お困りごとを聞いて可能な範囲で支援する様な活動も実施しています。
具体的には、地元のお祭りに参加して一緒に神輿を担いだり、地域の清掃活動で社員が汗を流したり。あるいは、小学生にランドセルの購入費用を一部補助する取り組みもおこなっています。
── ランドセルの補助までされているとは驚きです!単なるビジネスパートナーというより、昔ながらのご近所付き合いに近い感覚なんですね。
清水さん:そうかもしれませんね。そうやって顔と顔を合わせるなかで「ああ、ENEOSさんは東京から来て勝手に工事をする人たちじゃなくて、ちゃんとこの町のことを見てくれているんだな」と感じていただく。
その土台があって初めて「じゃあ、一緒にエネルギーのことも考えましょうか」というスタートラインに立てるんです。
一見遠回りに見えますが、そうやって地域と関わることが、結果として安定したエネルギー供給にもつながると信じて、地道な活動を続けています。
産業も観光も。再エネが地域の日常に近づく仕掛け

おいしいのにもったいないから始まった挑戦
── 地域との信頼関係がベースにあることはわかりました。さらにENEOSリニューアブル・エナジー株式会社では、そこから一歩進んで、地域の産業や観光の支援にも取り組んでいると伺いました。エネルギー会社がなぜ、特産品の開発や観光ガイドの制作まで手がけるのでしょうか?
清水さん:疑問に思いますよね。これも実は、机上の空論ではなく地域の人々と話すなかで見えてきたリアルな課題がきっかけなんです。 私たちは仕事柄、日本中の地方へ行きます。そうすると、素材は最高においしいのに、その魅力がパッケージや届け方で十分に伝わりきっていない、そんなもったいない商品に出会うことがよくあるんです。
── 確かに、旅先で隠れた名品に出会うことはありますね。「なんでこれが全国区で販売されていないんだろう」というような。
清水さん:まさにそうなんです。地域の人からも「うちはよいものを作ってるんだけど、なかなか外に売れなくてね」という相談を受けることがありました。
そこで、私たちがただのエネルギー会社として断るのではなく、おつなぎ役となって地域の産品をリブランディングし、販路を開拓するお手伝いができないかと考えたんです。
── 具体的にはどんなプロジェクトが進んでいるんですか?
清水さん:大きなところでは、大手百貨店と連携協定を結びました。地域の事業者が作る商品を百貨店のバイヤー目線で磨き上げ、ギフトサイトや店舗で販売するプロジェクトです。
第1弾として私たちが洋上風力発電事業を準備している秋田県の商品を開発中で、販売に向けて準備を進めているところです。
── エネルギー会社が百貨店と組んで、地元の食材をプロデュースする。すごい展開ですね!
清水さん:地域のおいしいものが高く評価されて、地域外からの収入を得られるようになればその地域は元気になります。
地域経済が回れば、過疎化に歯止めがかかるかもしれない。地域の暮らしが元気であって初めて、私たちもそこでエネルギーを作り続けられます。遠回りに見えて、実はすべてつながっているんです。
社員が足で稼いだリアルな情報を届ける
── もう1つ気になっているのが、オリジナルのるるぶを作っているところです。詳しく教えてください。
清水さん:はい。これは通常のガイドブックとは少し視点が違うんです。通常のガイドブックだと、どうしても有名な観光地や大きなレストランが中心になりますよね。
でも私たちが作っているオリジナルのるるぶは、社員が現場に何度も通って見つけたマップアプリや口コミサイトにも載っていないようなお店や地元の人しか知らない絶景をメインに紹介しているんです。
── それはおもしろそうです!社員ならではの口コミ情報ですね。
清水さん:そうなんです。渋くて味があるお店や地元の人に有名なお店などのリアルな情報が詰まっています。オリジナルのるるぶを作って自治体や道の駅に置いたところ、とても好評なんです。「よくこんな店知ってたね!」と地元の人にも喜んでいただいています。
オリジナルのるるぶを手に取った首都圏に住む人が「こんなおもしろい場所があるなら行ってみようか」と現地を訪れてくれたら最高ですね。私たちが目指しているのは、単に電気を送るだけのパイプではなく、人と人、地域と都市をつなぐ新しい回路を作ることなのかもしれません。
災害時のもしもに備える、安心のまちづくり

目の前の風車は回っているのに──地産地消の壁と挑戦
── ここからは防災について伺いたいです。近年、地震や台風などの災害が増えています。「地元の山に発電所があるなら、停電したときにそこから電気をもらいたい」と思いますが、実際はどうなのでしょうか?
清水さん:それが実は多くいただくご要望であり、技術的に難しい課題でもあるんです。
現状の仕組みでは、発電所の電気を直接近隣の家につなぐことは簡単ではありません。作った電気は一度、高圧の送電線に乗って都市部などの需要が多いエリアへ運ばれるシステムになっているからです。
── やっぱり、コンセントをつなぐようにはいかないんですね。
清水さん:そうなんです。ですから、災害時に地域一帯が停電しているなかで、山の上にある風車だけが回っている……という状況が起こり得ます。
役場の人や地域の方から「目の前で発電しているのに、どうして私たちの家は停電しているの?」など切実なお声をいただくこともあります。そのお気持ちは痛いほどわかりますし、私たちとしてもとても心苦しい部分です。
── そこで「できません」で終わらせず、何か代替策はあるのでしょうか?
清水さん:ええ。直接線をつなぐには莫大なコストと設備が必要ですが、違う形での安心なら届けられます。 たとえば、自治体と災害時の連携協定を結び、ポータブル蓄電池やソーラー充電シートを提供する取り組みを行っています。
楽しみながら備える防災イベントの熱気
── 防災用品の提供だけでなく、防災への意識を高める活動もされているそうですね。
清水さん:はい。とくに印象的だったのが、2025年11月に石川県志賀町で開催した防災イベントです。能登半島地震の影響もあり、住民の人々の防災意識はとても高かったなかで、私たちは楽しみながら学ぶことをテーマにしました。
はしご車による放水体験や、身体を動かしながら防災スキルを身につける防災スポーツなどをおこなったんです。数百人もの人が集まってくださって、子どもたちの笑顔があふれる素晴らしいイベントになりました。
── 被災地に近い場所での開催には意義がありますね。「再生可能エネルギーがあるから安心」というだけでなく「再生可能エネルギー事業者がいるから、防災の知識や備えが進む」というのも、1つの地域貢献の形ですね。
清水さん:おっしゃるとおりです。今後、岩手県釜石市でも同様のイベントを予定しています。電気を届けるのが私たちの本業ですが、それ以上に安心を届ける存在でありたい。災害大国の日本で、地域に根ざして事業に取り組むエネルギー企業が果たすべき責任は大きいと感じています。
地域の風や太陽が誇りになる。自立したエネルギーで生活を維持し続ける

私たちの選択がエネルギー自給率を高める
── ここまでお話を伺って、再生可能エネルギー事業が単なる発電を超えて、地域社会の維持や防災に深く関わっていることがわかりました。清水さんが描く未来を教えてください。
清水さん:私は再生可能エネルギーは日本の自立を支える産業だと思っています。
しかし現在、日本で使用されるエネルギーの多くは、輸入した化石燃料を燃やす火力発電に頼っているのが実情です。ひとたび国際情勢が不安定になれば、すぐに電気代が高騰したり、供給が危ぶまれたりするリスクが避けられません。
── 私たちの生活に直結する問題ですね。
清水さん:そのとおりです。しかし、風や太陽、地熱は純国産です。その資源を活用した再生可能エネルギーを地域で生み、地域で使い、余った分を都市へ送る。そのサイクルができれば日本のエネルギー自給率は上がり、地域の経済も潤います。
── 地域の風でエネルギー自給率を高めるということですね。
清水さん:まさにそうです。そして何より、私たち社員が仕事で地方に行くと、そのポテンシャルの高さに圧倒されるんです。
その土地ならではのおいしい食事や、息をのむような美しい風景が当たり前のようにある。「こんなに素晴らしい資源があるのに、知られていないのはもったいない」と、外から来た私たちが歯痒く感じることがあるんです。
── 外から見るからこそ、その価値に気づけるんですね。
清水さん:そう感じます。だからこそ、再生可能エネルギーという産業がきっかけとなって、地域のポテンシャルをもっと引き出したい。おいしい食があり、美しい景色があり、そこにはクリーンなエネルギーがある。そんな誇れる地域を1つでも多く残していきたいというのが、私の個人的な願いでもあります。
地方を楽しむことから始めよう
── 素晴らしいビジョンです。最後に、私たち読者が、地域のエネルギーや活性化のために今日からできることはありますか?
清水さん:難しく考える必要はありません。まずは地方を楽しむことから始めてみてください。
休みの日に地方へ旅行に行ったり、ふるさと納税でその土地の特産品をいただいたりする。それだけで十分、地域の応援になっています。
── それなら楽しく続けられそうです。
清水さん:私たちの発電所がある地域に行ったら「ああ、ここのおいしいご飯やきれいな空気は、あの風車やパネルがある町の人たちが守ってくれているんだな」と、少しだけ想像してみてください。
みなさんが地域に関心を持ち、訪れてくれることが、巡り巡って地域の再生可能エネルギー事業を支え、日本の未来のエネルギーを育てることにつながります。
── 「地域を楽しむことが、未来のエネルギーを支える」。その視点を持つだけで、旅先の景色が違って見えそうです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
2020年9月に当社第1号の地方創生業務専任の社員として入社。入社後3年半は、洋上風力案件に関する地元ネットワークの開拓・幅広い地域共創施策の検討具体化に従事。2024年4月から現職にて、地域に関する全社方針策定、陸上風力・太陽光等の現場でも展開可能な施策の検討・実行にも携わる。
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