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【加藤寛之氏】まちで暮らす人々が「今、いい感じ」と思える場所をつくる都市計画とは

人口減少の局面を迎えた日本において、私たちが発展を続けていくために必要なものはなんだろうか。キーワードのひとつは、日本政府が掲げる「地方創生」だ。

“都市計画家”の加藤寛之さんが代表を務める株式会社サルトコラボレイティヴは、「まちを元気にするにはどうしたら良いか?」を考え続けるプロフェッショナル集団。「地域に新しいチャレンジを創出する」・「ご近所を素敵に変えよう」・「おいしい革命を起こそう」の3つをミッションとして、まちの価値を高める活動に日々取り組んでいる。

今回は加藤さんに、まちの人々をウェルビーイングへと導く都市計画について、Wellulu編集部プロデューサーの左達也が話を伺った。

 

加藤 寛之さん

都市計画家/株式会社サルトコラボレイティヴ代表

千葉県千葉市出身。立命館大学在学中に都市計画家・髙田昇に師事。大学を卒業した1999年、イタリアへ渡り、20都市以上を巡る放浪の旅に出る。帰国後、髙田氏が代表を務めるCOM計画研究所に弟子入り。2000年には兵庫県氷上郡柏原町(現・丹波市)に移住し、タウンマネージャーとして、株式会社まちづくり柏原の設立や、同社が運営するイタリア料理店「オルモ」のプロデュースなどに携わる。2007年、大阪府枚方市で地元有志と「枚方宿くらわんか五六市」を立ち上げ、大きな注目を集める。2008年、株式会社サルトコラボレイティヴを設立し、日本各地のエリア再生に関わりつつ、自身も暮らす大阪市阿倍野区では地域の店舗や人材を守り育てる「Buy local」や都市と産地を結ぶ新たな流通を構築する「THE MARKET」の運営など、まちの価値を高める活動をライフワークとして取り組んでいる。

左 達也

Wellulu 編集部プロデューサー

福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、生活総研では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。

目次

日本のまちに抱いていた違和感が、「地域を元気にする」仕事へとつながっていく

左:本日はよろしくお願いいたします! まずは、加藤さんが行っている活動についてお聞かせください。

加藤:こちらこそよろしくお願いいたします。私たちサルトコラボレイティヴが取り組んでいるのは、いわゆる「まちづくり」です。「元気のない地域を元気にする」のが私たちの仕事なんです。

左:地域を元気にする「まちづくり」というのは、まちで暮らす人にとってのウェルビーイングに大きく関わる仕事だと思います。加藤さんが「まちづくり」に興味を持ち始めたのは、いつ頃からだったんですか?

加藤:大学に入るまでは、都市計画やまちづくりに全く興味がありませんでした。しかし、高校生の頃から「まち」に対して違和感を覚えていた部分があり、それが今の仕事にもつながっているのかもしれません。私は千葉県千葉市中央区に住んでいたのですが、千葉県では東京に近い場所に住んでいるほうがヒエラルキーが高いんですよ(笑)。

左:本来だったら千葉市が県の中心のはずなのに、住んでいる人たちは常に「東京」のほうを向いているということですね。

加藤:大人も同世代も、東京の大学を出て東京で働くことが当然だと思っている。ずっと「何かがおかしいな」と感じていました。当時はバンドをやっていて、海外の音楽にはまっていたのもあり、「いつか日本から出て行ってやる」と本気で思っていたんです。

左:日本のことを嫌いになりかけていた時期だったんですか?

加藤:そうですね。実際に、京都の立命館大学に進学して、海外留学のプログラムでカナダにいくことになりまして。そこでは現地の学生が、口々に日本を褒めてくれました。「日本はCoolだ!」と言いながら、持っている日本製品を自慢してくるんですよ。

左:カナダでの経験が、あらためて日本を見つめ直すきっかけになったんですね。

加藤:段々と「あれ、どうして日本のことを嫌っていたんだっけ?」と思うようになっていきました。日本に帰ってきてからも、まだ都市計画やまちづくりという言葉は頭の片隅にもありませんでした。そんなときに出会ったのが、私の師匠でもある都市計画家の髙田昇先生だったんです。

都市に目覚め、まちづくりの道へと情熱を注ぐ

加藤:髙田先生の「市民参加論」という講義では、日本は東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市だけで成り立っているのではなく、小さな都市やまちの輝きこそが日本なんだと、しかしそれが失われかけていると語られていて、本当に感銘を受けました。

左:カナダから帰ってきたタイミングだったからこそ、「まさにこれだ!」と感じたんですね!

加藤:そうなんです。第1回目の講義で感銘を受けて、髙田先生が都市計画の会社を経営していることを知り、その日のうちに「先生の会社に入れてください!」と会いに行きました。それが私にとって、唯一の就職活動です(笑)。

左:その行動力もすごいですね! そこからずっと、まちづくり・都市計画に没頭していったんですか?

加藤:都市やまちづくりと書いている本は、とにかく読み漁りました。まさに「都市に目覚めた」瞬間だったんです。

左:急に「都市に目覚めた」加藤さんを見て、周りはどのような反応だったのでしょうか。

加藤:違和感しかなかったでしょうね(笑)。もうひとつ、先生への弟子入りを決めた理由としては、関西の魅力を知ったこともあるかもしれません。大学進学で関西に住むようになり、居心地がいい場所だなと感じていたんです。

左:私も関西に住んだことがありますが、本当に魅力的な地域で大好きです。関西の各都市にはそれぞれ独自の個性があり“独立国家”の集合体なんですよね(笑)。

加藤:そうですね! 関東圏のように東京一辺倒ではなくて、まちの輝きがあって、気持ちがいいんです。

左:そこも、髙田先生の講義とリンクしたんですね。大学を卒業して、すぐに髙田先生の会社で働き始めたのですか?

加藤:実は卒業して働き始める直前の3月に「1年間、休みたいです」と伝えにいきました(笑)。そしてイタリアに向かったんです。

左:確かにイタリアも都市国家の集まりのような国ですよね。

加藤:まさにその通りですね。20以上のまちを巡って感じたのは、まちの人におすすめの飲食店を聞くと、どこのまちでも、ものすごい勢いで教えてくれることでした。

左:「自分のいきつけはここなんだ」とアピールしてくれるんですね。

加藤:それだけじゃないんです。「この店で使っているオリーブオイルは、ここの地域のこのエリアで採れたオリーブで作られたものなんだ」「ワインはこのエリアで、食材はここだ」と地域の人しかわからない情報を伝えてくれる。住んでいる人たちの地域への愛が伝わってくるんです。

左:日本の地域では、あまりない光景かもしれませんね!

加藤:日本では、やはり住んでいるまちに対する自己肯定感が低いように感じています。そこをなんとか変えていきたいと取り組んでいる最中です。

まちを生まれ変わらせるために。新たな挑戦を常態化する戦略

左:サルトコラボレイティヴでは、地域の人々との共創によって新しいチャレンジを続けています。その発想の源はどこから生まれたのですか?

加藤:2000年に髙田先生の会社で働き始めて、当初は都市計画コンサルタントとして、スーツを着て、自治体と仕事をしていました。行政の仕事をする上でまずやるのは、アンケートを取ったり、ヒアリングをしたり、ワークショップを開くことです。つまり最初に人の意見を聞くんですね。しかし気づいたのは、多くの人の意見を聞き過ぎてしまうと、すばらしいものは創り出せないということだったんです。

左:いろんな人の意見を取り入れて調整していくと、どうしても平均的なものになってしまいますよね。その結果、ターゲットが不在の状況というのは、私たちのマーケティングの仕事でもよくあることかもしれません。

加藤:今では自治体とも各地でお仕事をさせていただいていますが、2008年の独立時にはそういった理由もあって行政と仕事をしないまちづくりという方針で進めていました。いま思っても無謀でしたね(笑)。

左:普通は考えない戦略ですよね。どのような状況になりましたか?

加藤:本当に、2~3年で結果が現れましたね。みるみると収入が無くなっていきました。

左:確かに行政と仕事をしないなら、どこからお金が出るのかという話になりますよね。

加藤:当たり前ですよね(笑)。そんなどん底の時期から私を救ってくれた企画が、独立直前に始めていた「枚方宿くらわんか五六市」でした。これは2007年に大阪枚方市の地元有志と立ち上げた、月一回の青空市。この「枚方宿くらわんか五六市」が2~3年の月日をかけて育っていき、注目されて、今の仕事につながっていきました。

左:青空市の企画を始めたのは、何かきっかけがあったのですか?

加藤:もともとは、師匠の会社で枚方市の町並み保存の取り組みを支援していました。そこで地元の方に言われたのが「加藤くん、確かにまちはきれいになっていくけど、私たちは別にまちをきれいにしたいわけじゃないんだよ。元気なまちを取り戻したいんだ」という言葉でした。

「それはそうだよな」と腑に落ちて、まちを元気にするために新しい商売を活性化できるような企画を考え始めました。そして2006年に立ち上げたのが「枚方宿町家情報バンク」。まちにある空き店舗を活用したい希望者を募集したところ、メディアにも取り上げられて、100人を超える応募が集まりました。その後、2007年に開始したのが「枚方宿くらわんか五六市」だったんです。

左:「枚方宿くらわんか五六市」の、どのような特徴がブレークにつながったのですか?

加藤:このイベントは集客イベントではありません。町家を自分の商売で活用したい希望者の、人となりが見えるような仕組みを考えて生まれたものです。月一回開催する定期マーケットに出店してもらって、地元の人とコミュニケーションを取ってもらう仕掛けなんです。

こうした新しいチャレンジは、地域の新陳代謝にも刺激を与えてくれるはず。「この地域はおもしろいかもしれない」「新しい何かが生まれるかもしれない」という期待感が、まちを変革していくんです。この考え方は今でもサルトコラボレイティヴの事業の柱になっています。

地域との信頼関係を築き、まちにとって大切なものを守って育てる覚悟を

左:加藤さんが新しい挑戦を生み出すときに、大切にしている視点や考え方はどんなことですか?

加藤:最初に私たちが考えるのは、「この地域が好きな人とは、どんな人だろう」ということ。そうして見えてくるのが、このまちを好きになってくれる人の人物像です。はじめはその人たちに向けた取り組みを考えていくことが大切だと思います。

左:まちのことを好きになってくれる人たちを理解して、リソースをつぎ込むことでまちを変えていくという手法なんですね!

加藤:そうです。例えば、当初「枚方宿くらわんか五六市」は、枚方市に住む小さな子どもがいるお母さんをメインのお客さまと設定してスタートしました。どうすればメインの人たちに足を運んでもらえるかを考え、リソースを集中して、取り組んでいきました。結果、毎月マーケットに訪れてくれるような人たちが生まれ、その人たちが他の来場者や出店者を呼んで、イベントを広げていってくれるのです。五六市は今では老若男女問わず、毎月約4,000人が訪れる、枚方エリアの大人気イベントにまで成長を遂げました。

枚方市から始まり、兵庫県丹波市、三重県伊賀市、大阪府大阪市芦原橋、静岡県沼津市、奈良県大和郡山市などでも、同じ思想と戦略で取り組んでいます。

また最近では、沿線エリアが衰退することで影響を受ける鉄道会社からの相談や取り組みも増えています。例えば近畿日本鉄道とは、三重県伊勢市宇治山田駅周辺エリアの暮らしづくりを進めています。観光地である伊勢市で、あえて地元の人の暮らしにフォーカスした取り組みをしようという活動です。

当初、近畿日本鉄道からは、1931(昭和6)年建築の素晴らしい駅舎を利用して、新たな開発をしたいという相談がありました。ただ、現状ではひとつ手前の伊勢市駅で観光客は降りてしまい外宮に向かいます。観光客にほとんど使われていない宇治山田駅をリノベーションしても、成功しづらいのではないかと考え、観光ではなく日常の暮らしを守り育てることでエリアの価値を高め、その後駅舎リニューアルを検討することを提案しました。

伊勢市駅側は、外宮参道などの観光客向けコンテンツが充実してきています。それと競うのではなく、伊勢市での素敵な日常づくりによってエリアの価値を高めることで、結果、観光客も訪れるエリアになるだろうという目論見です。

左:なるほど。枚方市での成功を起点に、それを応用しながら様々な地域で民間の方と協働してウェルビーイングなまちをつくっているのですね。そんな加藤さんが取り組む「まちづくり」にとって、欠かせないこととはなんでしょうか。

加藤:それぞれのまちには、守って育てなければならないものが必ずあります。地域の人たちが愛してやまないものが薄れているこの時代だからこそ、そこを育てていくことがまちづくりの本質なのではないでしょうか。どんな事業を進めるにしても、まちが好きな人たちのほうを向いていて、かつ、まちにとって大切なものを守って育てることにつながっているのか。これが一番の基準になると思っています。

しかし、私たちのまちづくり戦略は、多くの意見を取り入れずに事業を進めるので、各所からクレームが出てくることも。地域の方々と、一緒に乗り越えていく必要があります。まちづくりに取り組む際は、地域から参加するメンバー一人ひとりと向き合い、「3年間、私を信じて欲しい」と伝えているんです。

左:一人ひとりと信頼関係を築きながら、まちにとって譲れない「芯」になるものを守り育てることで、地域に居心地のいい場所をつくり、ウェルビーイングを広げていく手助けになっている。それが加藤さんのまちづくりということですね。

加藤:居心地のいい場所をつくる、というよりも地域の人が「今、いい感じ」と思える場所をつくるというほうが近いかもしれません。

私が暮らしている大阪市阿倍野区で、「Buy Local」というイベントを主催しているのですが、これは地域の“よき商い”を守り育てるイベントなんです。ご近所さんが集まる平日の昼間に、年に1度開催するプロジェクト。地域にゆるやかなつながり、コミュニティをつくることで、暮らしている人のQOLを上げて、「なんか今、いい感じだな」と思えるエリアへとアップグレードしていくんです。住んでいる近所でどれだけの時間を過ごして、どれだけ幸せを感じられるかが、私にとってのウェルビーイングなのだと思っています。

多くの地方都市は衰退傾向にあり、自治体も予算が少なく身動きが取れない状況にあります。そんななか、沿線に責任のある鉄道会社や交通事業者が、私たちのノウハウを使い各都市のウェルビーイングにつながる取り組みができる。そうすることで、地域に住む人にとっても、事業者にとっても、また日本にとっても幸福な未来「なんか今、いい感じ」を創造していけると考えています。

左:本日は素晴らしいお話をお聞きできました! 最後に、加藤さんにとって最もウェルビーイングを感じるのは、どんな瞬間ですか?

加藤:自分のお店(「THE MARKET」)で平日の昼間からビールを飲んでいるときですね(笑)。私自身、お店にいることも多いので、ぜひみなさん遊びにきてください。

左:それは間違いないですね(笑)! 今度お店にも遊びに行かせてください。

まちにとって大切なものを守って、育てる。一見当たり前に思えますが、実は両立が難しい地域のウェルビーイングを考える時に、大切な視点をお聞かせいただけたと思います。本日はありがとうございました!

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