病気やケガなどの治療・改善のためにスポーツジムを利用している人は、医療費控除の対象になっていないか確認してみよう。
医療費控除とは、1年間でかかった医療費が一定額を超えた場合に、同じ年の所得から医療費の一部が差し引かれて税金が安くなる制度。
今回は税理士の河南先生に「医療費控除を受けるための条件や申請方法」について話を伺った。
河南 恵美さん
税理士事務所代表
スポーツジム費用で医療費控除を受けるための条件
大前提として、スポーツジムの利用料金について医療費控除を受けるためには3つの条件をクリアする必要がある。
この3つの条件すべてを満たしていないと、控除対象にはならないため注意しよう。
- 提携医療機関にて「運動療法処方せん」をもらっている
- 厚生労働省認定のジムや施設に通っている
- 週1回以上、8週間以上の継続利用をしている
簡単にまとめると「病気やケガなどの治療・改善のために、国から認定を受けているスポーツジムへ定期的に通っていること」が条件となる。
身体づくりや健康維持のために通っている場合は、残念ながら医療費控除の対象にはならない。
しかし、生活習慣病は対象になるため、たとえば高血圧、糖尿病、高脂血病などの改善のために通っている場合は条件を満たしやすい。
💡ワンポイントアドバイス
メタボや腰痛医の場合だと療費控除の対象とならない可能性が高いです。
医師から処方せんをもらっていること
1つめの条件は、医師から「運動療法処方せん」をもらっていること。
病院でもらう薬の処方せんにどんな薬が必要なのかが書いてあるのと同じように、運動療法処方せんにも、「治療にどのような運動が必要なのか」が記載されている。ただし、薬の処方せんと違い、どの病院でも発行してくれるわけではない。
運動療法処方せんを発行してもらえるのは基本的に「運動処方外来」や「心臓リハビリテーション外来」のある病院。これらの病院には発行に必要な運動負荷試験ができる設備があり、運動生理学に専門的な医師もいる。
ただし、これらの病院は数が少なく、各府県に1ヶ所あるかないか。都内や道内でも4〜5ヶ所ほど。かかりつけ医に相談すれば近くの病院を紹介してもらえる。
💡ワンポイントアドバイス
病院やお医者さんによって判断基準が多少変わる可能性があります。基本的に条件など厳しめだと予測しております。
厚生労働省認定の施設を利用していること
2つめの条件は、厚生労働省認定の施設を利用していること。どのスポーツジムを利用してもよいわけではなく、治療や改善に役立つ運動ができると認定されている施設のみが対象になる。
たとえば有酸素運動や筋トレなどのトレーニングを安全におこなえること、運動だけでなく生活指導をしてもらえること、健康運動指導士のような専門の運動指導者がいること、医療機関と連携していることなどの条件を満たした施設でないといけない。
認定を受けた施設は厚生労働省認定の「指定運動療法施設」と呼ばれており、令和5年3月時点で全国に226ヶ所ある。施設は厚生労働省のホームページに一覧が掲載されているので、最寄りの施設を確認しよう。
週1回以上8週間以上の運動をしていること
最後の条件は、治療目的として治療目的として厚生労働省認定のスポーツジムを定期的に利用していること。期間は週1回以上かつ、最低8週間以上ジムに通っている必要がある。規定の期間以上通ったら、「運動療法実施証明書」を発行してもらえる。
セルフメディケーション税制との併用は不可
運動以外にも薬局で薬や医療品を購入していて、すでにセルフメディケーション税制を利用して控除を受けている場合、スポーツジム利用分の医療費控除は受けられないため覚えておこう。
ジムでの医療費控除額はいくら?
運動以外にも薬局で薬や医療品を購入していて、すでにセルフメディケーション税制を利用して控除を受けている場合、スポーツジム利用分の医療費控除は受けられないため覚えておこう。
💡ワンポイントアドバイス
基本的には、医療費の合計額と対象のお薬の合計金額を算出して比較することになります。
実際にジムの利用料金について、医療費控除額を具体的に計算してみよう。
医療費控除の額を求めるには、次の計算式を使う。
【還付金額(最高200万円まで)=1年間の医療費総額-保険金や給付金などによる補填額-10万円】
(※所得が200万円未満の場合は総所得金額の5%)
簡単に説明すると、1年間で支払った医療費のうち、生命保険や自治体の給付金など補助があった額と、自己負担額10万円を差し引いた額が還付金額になる。
たとえば年間所得が180万円の人が、ジムの会費や医療費に年間20万円かかり、保険金で5万円を受け取った場合は20万円-5万円-9万円(※所得の5%)=6万円が控除額になる。
つまり、所得税は6万円×5%で3,000円、住民税は6万円×10%で6,000円、合計で9,000円の節税ができる計算。
なお、医療費の額は家族内で合算できる。家族の中で一番所得の多い人が家族全員分の医療費をまとめて自分の収入から控除すると、還付金額が高くなるので覚えておこう。
医療費控除の申請手順
実際に医療費控除を受けるには、次の手順で申請する。
- かかりつけの病院で診断を受ける
- かかりつけ医か、提携の医療機関で「運動療法処方せん」をもらう
- 一定期間の運動終了後にジムから「運動療法実施証明書」をもらう
- 運動療法実施証明書をかかりつけ医に見せて捺印してもらう
- 確定申告して運動療法実施証明書を税務署に提出する
医療費控除を受けるには、少なくともかかりつけの病院、指定運動療法施設、税務署の合計3つの機関を利用する。事前の診断も必要なので、ジムに行く前に必ずかかりつけ医に相談しておこう。
運動療法処方せんとジムの領収書、運動療法実施証明書を用意する
医療費控除を受けるために必要な証明書は次の3つ。
- 運動療法処方せん
- ジム利用料の領収書(交通費も対象)
- 運動療法実施証明書
運動療法処方せんは指定の医療機関で、ジムの領収書と運動療法実施証明書は、利用している指定運動療法施設で発行してもらえる。
運動療法処方せんを受け取ったら、まず指定運動療法施設に行ってスタッフに運動療法をしたいことや、医療費控除を受けたいことなどを相談してから運動を始めよう。
運動療法実施証明書は指定運動療法施設が記入したのち、かかりつけ医師が確認して捺印することではじめて有効になる。
運動療法実施証明書は確定申告で原本を提出する。ジム利用料の領収書については提出しなくてよいが、5年間の保管義務があるため大切に自宅でとっておこう。
確定申告は毎年2月16日~3月15日に住んでいるエリアを管轄する税務署でおこなう。税務署指定の確定申告書類に記入し、運動療法実施証明書を一緒に提出する。e-Taxであれば申告や証明書の提出をネット上でおこなうことも可能。
💡ワンポイントアドバイス
ジム利用料の領収書は、明細書の記入内容を確認するため、税務調査が入ったときの証拠書類として必要になります。
会社勤めの人であっても、医療費控除は年末調整では申請できないため、年末調整をしたあとに自分で税務署に申告しよう。
確定申告は5年前までさかのぼって申請できるので、もし条件を満たしていたのに医療費控除をしていなかった場合は税務署に相談するとよい。書き方に不安がある場合は、期間中に税務署に行けば丁寧に教えてもらえる。
医療費控除や確定申告に関するQ&A
最後に「医療費控除のよくあるミス」や「確定申告の期限を過ぎた場合」について、河南さんに伺った。
Q:医療費控除の申請でありがちなミスは?
A:保険などで補填された金額を引き忘れないように
医療費控除のよくあるミスとして、保険などで補填された金額を引くことを忘れがちです。また自分だけではなく家族のために支払ったものも合計できます。
Q:確定申告の期限を過ぎてしまったら?
A:翌年まで待たなくても提出は可能
還付の場合は5年間遡れますので、翌年まで待たなくても提出が可能です。2年分まとめてでもできます。