
2025年4月、東京ビッグサイトで開催された「ビューティーワールド ジャパン 東京」。化粧品、ネイル、美容機器、ヘア、スパなどビューティーにまつわる最先端の製品・サービス・技術が世界中から集結する、BtoB向けの見本市だ。
Welluluでは、ビューティー領域における最新技術とウェルビーイングの関連性を探るべく、体験取材を実施。
さらに、編集長の堂上研がヘルスケアプロフェッショナル・小林眞咲惠さんと共に登壇した【激動の時代を生き抜く「ウェルビーイングなライフスタイル」〜編集長とヨガ起業家が語るビジネスの舞台裏〜】の模様もお届けする。

堂上 研
株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長
呼吸から整える、心と体。簡単ヨガ&瞑想体験にチャレンジ
まずはウェルネスブランド「WE’RTHY」を主宰し、モデル、ヨガ講師としても活躍する野沢和香さんによるセッション「Inside and out beauty 内側から輝く人になる簡単ヨガ&瞑想」に堂上が参加。多くの参加者で埋め尽くされていたが、なんとか滑り込むことができた。
野沢さんは「ヨガのポーズがうまく取れるかよりも、私自身がヨガが好きで、これいいよ! と楽しんで伝えていることのほうが大事だと思っています。もし私がヨガのポーズがとても上手でも、すごくイライラしていたら嫌ですよね」と語る。
さらに、「ストレスや悩みって、“今この瞬間”に起きていますか?」と参加者に問いかける。ストレスの多くは、実際には今この瞬間ではなく、過去の出来事を思い返していたり、まだ起こっていない未来のことを憂いたりすることから生まれているという。
「つまり、“今”に意識を戻せれば、ストレスがない状態にリセットできるんです。そのスキルを身につけることで、皆さんの笑顔はもっと輝きます。そのために役立つのが、身体の感覚にフォーカスすること。最も強力なパートナーは“呼吸”です。どんなに嫌なことがあっても、身体は健気に呼吸をしています。そこに意識を戻して観察することで、今に返ってこられる。ヨガのポーズが上手くできなくても、今の呼吸にただフォーカスしてみてください」。
セッションでは、消防士や警察官など高ストレスな職業でも導入されている「2カウントブレス」や、スタンフォード大学でも高い効果があると言われた「ダブルインヘル(2回吸って1回吐く)」といった呼吸法も紹介されたのちに、ヨガがスタート。
——なかなかにハイレベルな内容に苦戦しましたが、呼吸を意識しながら過ごすことができました。はじめてのヨガは、膝を故障している僕にとっては、絶対無理なものもあったが、ひとつひとつの動きに、体の今まで使ったことのない筋肉と関節が、動かしてくれてありがとう、と言ってくれるような体験をしました。心がフッと静かになる感覚は、忙しい日常の中でとても貴重ですね。
よもぎ蒸し・AI肌解析・水素浴……最先端のウェルネス体験
次に訪れたのは、近年女性を中心に注目を集めている「よもぎ蒸し」の体験ブース。「よもぎハーバル協会」による展示で、よもぎを鍋で煮出し、その蒸気で身体を温めることで血流を促し、冷え性や倦怠感などの悩みにアプローチする。
堂上も、萩焼作家が焼いたよもぎハーバル協会こだわりの壺で、人生初のよもぎ蒸しをプチ体験。
——じわ〜っと心まで解けていくような、なんとも言えない心地よさでした。体の巡りが整っていく感覚があって、終わった後は心身ともにすっきりしていました。実際に、よもぎ蒸しがこんなに流行っていることを知らなかったので、びっくりな体験でした。
さらに足を運んだのは、AI技術を活用した肌解析ツール「スキンケア プロ」を提供するパーフェクト社のブース。AIを搭載したアプリで顔写真を撮ると、肌指数や、油分やしわ、しみ、ニキビ、ケア、くまなどの状態を数値化してくれる。
堂上の数値は果たしてーー?
——僕自身、夏の紫外線の強い日でもほとんどケアせずに、息子のサッカーの試合の応援に行ったりしていたので、ボロボロだろうと思っていたところ、意外と年齢相応の肌で少し安心しました。毛穴ケアの点数がわるく、自分では気づいていなかったことが可視化されてドキッとしました。日々のケアを見直すきっかけになるなと。美容もテクノロジーの力で、ここまで進化していることに驚きました。
そして最後に訪れたのは、水素の力で心と体を癒すチュチュル社のブース「ハイドロオアシス・プレミアム」の展示。これは日本医科大学名誉教授・順天堂大学客員教授の太田成男氏が開発した、室内の水素濃度を高めることで体内に水素を吸入させ、リラックス効果をもたらす水素ルームである。
酸素カプセルはよく聞くが、酸素が「回復」に寄与するのに対し、水素は「治療」までのアプローチが期待されているという。「水素は疲れている細胞や傷ついている細胞をマイナスから0ではなく、100%にまで引き上げます。水素を吸入すると脳波が落ち着き、眠くなる方も多くいます。5時間ほど経つと身体から抜けてしまうので、定期的な吸入がおすすめです」と、太田さんは語る。
——10分ほどの短時間でも、自分自身のストレスがなくなっていくのが数値で見える化してくれていて、頭と体がすっきりクリアになるような感覚がありました。気づけば少しうとうとしてしまうほどリラックスできる空間でした。仮眠室とかに、水素と酸素があったりしたら、オフィスでパワーナップを10分しただけで、一気に回復できるのでは、と期待を持てました。
経営者のウェルビーイングが、組織の未来を変える
ここからは、ビューティー ワールド ジャパン 東京のワークショップエリアで開催された小林 眞咲惠さんとの対談【激動の時代を生き抜く「ウェルビーイングなライフスタイル」〜編集長とヨガ起業家が語るビジネスの舞台裏〜】をお届けする。

小林 眞咲惠さん
ヘルスケア専門家(健康経営アドバイザー)
ヨガ起業家(インド中央政府認定 ヨガ指導者レベルⅡ)
神戸出身。2021年より、インド政府公認 ヨガ大学に在学中。約15年間、外資系企業で役員秘書を務める中、恩師である元上司(女性経営者)の急逝をきっかけに「ヨガの普及」を志す。企業に特化したトータルヘルスケア・サービス「BizYoga+®」を開発し、さらにスキマ時間で実践できる「1分ヨガ®」を展開。
「ヨガジャーナル2024春号」(プレジデント社)掲載や、世界のヨガ 日本語抄録作成、ヨガジェネレーション連載など、幅広く活動。企業・メディアと連携し、ウェルビーイング社会の実現を目指す。
堂上:今日は、①ウェルビーイングに働ける組織をどう作るのか、②ウェルビーイングとビジネスの関係、③呼吸法の実践という3つのテーマでお話をしたいと思います。小林さん、よろしくお願いします!
小林:よろしくお願いします! 私は以前、15年ほど外資系企業で役員秘書を務めていたのですが、ある日、元上司の女性経営者がメンタル疾患により他界するという辛い経験をしました。その出来事がきっかけで、「働く人の命を輝かせる」ということをテーマに、働く人たちがいかに健康を損なわずにパフォーマンスを上げ続けられるかを探求しています。
堂上:小林さんご自身は、ストレスをためないライフスタイルをどのように実現しているでしょうか。
小林:じつは、生後8カ月の頃に先天性の疾患が見つかり、無意識ながら命と向き合わざるを得ない状況にありました。中学生くらいまで病院に通う生活をしていたので、その影響もあって、「生きる」ことと向き合うことが自然と習慣になっていたのだと思います。
堂上:素晴らしいですね。とはいえ、美味しいものを食べすぎてしまったり、誘惑に負けてしまったりすることはないですか?
小林:それがあまりないんです。15歳の頃、食べ盛りで体重が58kgまで増えたのですが、一度自分の体重をコントロールしてみようと思い、3カ月で10kg減量しました。それ以来、体重や体型はほとんど変わっていません。
堂上:すごいですね! 僕は大学までサッカーをしていたのですが、社会人になってからは運動不足と暴飲暴食の日々……。ウェルビーイングを探求するようになってから、ようやく身体のメンテナンスにちゃんと意識が向きました。
組織のウェルビーイングという観点でいうと、働いているとストレスを溜める人も多いと思います。なぜストレスが生まれるのだと思いますか?
小林:シンプルにいうと、「やりたくないことをやっているから」だと思います。
堂上:なるほど。僕たちが全国で1万人以上の方を対象におこなった調査では、ウェルビーイングに働けていると回答した人は約30%。ウェルビーイングに働けない理由としては、「他者が自分と向き合ってくれていると感じない」という声が働きづらさの理由として多かったんです。ウェルビーイングに働ける、ワクワクしながら働ける環境を作るためには、対話やコミュニケーションが欠かせないのだと分かった調査でした。
小林さんは企業に向けてヨガを行なっていますが、参加者の様子はいかがですか?
小林:疲れた顔をしている人が多いですね……。ヨガって女性がやるイメージを持つ方も多いかもしれませんが、企業でヨガをやらせていただくと男性のほうが一番前にずらっと並ぶことが多いんです。フィットネスには女性が多いのでなかなか行きにくいけれど、自分のストレスの発散方法や心のバランスの取り方に悩んでいる男性が多いのだと感じます。最近は、経営層の方がヨガや瞑想を取り入れるケースも増えてきました。
堂上:経営者がヨガや瞑想を取り入れるのは、「自分と向き合うため」「心の余裕を持つため」なのでしょうか。
小林:それもあると思うのですが、実際にはもっと切実な感情……例えば、絶望に陥った時、つらい時に自分の内側から自らを奮い立たせようという気持ちがあるのだと思います。自分と向き合うことから逃げない強さを持っていることは素晴らしいことだと思いますし、そういうタイミングで瞑想が良いと聞いたり、私とお会いするご縁があったりするようです。
堂上:自分で気づいて、ヨガを学ぼうとするのは素晴らしいですね。実際、ある会社の経営陣にウェルビーイングについてお話させていただいた時、「朝目覚めが良かった方は手を挙げてください」と聞いたら、誰ひとり手を挙げなかったんです。次に30秒間にどれくらい呼吸をしているか数えたところ、みなさん浅くて速い呼吸ばかりでした。経営者がウェルビーイングではないと、組織もウェルビーイングにならないなと感じました。
小林:本当にそうですね。「経営者が整えば事業が整う」と言っても過言ではないと思います。
堂上:僕もそうだと思います。小林さんは、ウェルビーイングに働くためには何が大切だと思われますか。
小林:よく、「フィットネスジムに通ったりヨガをしたりする時間すらない」といった声を耳にします。
堂上:僕もまさにそうです! 始めても、忙しさに追われて結局続かなくなってしまうんですよね。
小林:でも、忙しい日々のなかでも“自分の内側にウェルビーイングを持つ”ことはできるんですよ。「忙しい」は“心を亡くす”と書きますよね。でも働くって、もともとは「傍(はた)を楽にする」こと。周囲を楽にして、自分も楽になる。そんな考え方を大切にしてほしいと思います。
例えば、誰かと会話をしている時に、メタ認知というか、客観視する力を高められると相手の言葉の裏側の感情を想像して、相手の言葉の背景まで想像できるようになります。このコミュニケーションができるようになると、それだけで心の余裕が生まれ、忙しくてもウェルビーイングが育まれていくのではないでしょうか。そうした積み重ねが、結果的により素晴らしいプロダクトやサービスにもつながっていくと思います。
堂上:おっしゃる通りですね。経営者は弱みを見せるということも、ウェルビーイングなコミュニケーションにつながると思います。「弱みを出しちゃいけない」「自分が全部を把握しなければならない」「人に任せられない」と思っている経営者も多いですが、権限委譲ができている組織のほうが、成長した人の多い組織になりますよね。結果として企業全体の力も伸びていくと思います。
ウェルビーイングをビジネスにする3つの観点
堂上:次に、ウェルビーイングとビジネスの関係についてもお話できればと思います。フィットネスやビューティーから介護、終活まで、さまざまなウェルビーイング関連の事業を分析したところ、じつはtoC向けのビジネスの多くが上手くいっていないことがわかりました。
小林:それはなぜだと思われますか?
堂上:お金を払ってでも手に入れたい、というレベルまで昇華されていないサービスや商品が多いのだと思います。「あったらいいな(nice to have)」、というものを、「なくてはならないもの(must have)」にどう変えていくか。日常の習慣の中に取り入れてもらい、自分事化してもらうためにはどうすればいいのかを探求していく必要があると思います。僕らエコトーン社は、企業と一緒にその探求を進めるお手伝いをしています。
小林:変えていけるというのは希望ですね。それは多くの企業にとって光になると思います。
堂上:ありがとうございます。僕たちが「must have」を実現するために大切にしていることが3つあります。
まず1つ目は、インセンティブの設計です。健康になりたいと思っていても、実際に行動を継続できる人は少ないんです。ある調査では、健康になりたくて行動できている人は1割にも満たないというデータがありました。三日坊主にならないためには、ポイントが貯まったり、コミュニティなどのつながりが生まれたりするようなインセンティブの設計で、行動を後押しする仕組みが大事になります。
2つ目は、エンターテイメント性。知らないうちに「続けている」という状態をどう作るかが鍵です。「ポケモン GO」や「リングフィット アドベンチャー」のように、楽しさが続ける原動力になる事例は多いですよね。
3つ目は、コミュニティの存在です。例えば、小林さんと僕が1日の歩数を共有していたとして、小林さんが100歩しか歩いていなかったら、僕が「今日は100歩しか歩いていないね、大丈夫?」と声をかけられます。「今日は仕事が忙しくて歩けていないんだよ」と、対話が生まれるとこれがウェルビーイングにつながっていきます。
いかに人が動く環境を作るか、習慣化できるか。家族や職場、友人同士などどんなコミュニティの形でもいい。お互いを支え合う環境、共存する環境をどう作るかということを、ビジネス設計でも大事にしています。
小林:私が以前、大手企業5社とご一緒したプロジェクトでも、ウォーキングをしたらポイントが貯まる実証実験をおこないました。個人と伴走する仕組みを入れたことで、とても好評でした。
堂上:企業同士の共創も大切ですよね。例えば、腸活に特化した企業とヨガの企業がコラボしたら、新しい価値が生まれるかもしれません。僕たちはそういった企業間のつながり作りのサポートもできればと考えています。
忙しいあなたに、スキマ時間で整う「1分ヨガ®」
堂上:最後に、小林さんの「1分ヨガ®」をぜひ教えてください。
小林:はい。「1分ヨガ®」を通してお伝えしたいのは、“いつでも、どこでもウェルビーイングな状態になれる”ということです。まず、両足をパラレルに揃えて立ってみてください。重心は母趾球・小趾球・かかとの3点に置きます。横から見ると、少し後ろのかかとに重心が乗るイメージです。
次に、顎を軽く引いて、肩をストンと落としましょう。足の裏側から地面に根ざすような、宇宙に届くようなイメージで立ちます。同時に、上にグーっと背骨を伸ばして、頭の中心から軸を上に、天井を突き抜けて、空を突き抜けて、宇宙を突き抜けるようなイメージでまっすぐ伸びていきます。これが「センタリング」と「グラウンディング」というものです。
続いて、お腹の一点に集中します。おへそから指4本分下あたりにある「臍下丹田(せいかたんでん)」というところがあるので、そこに意識を向けてみてください。
両手を胸の前で合わせたら、300回ほど手をこすり合わせます。すると、エネルギーが出て、温かくじわじわっとしてきますよね。
小林:親指を胸の前に当てて、じわじわした感覚を、全身に行き渡らせてください。頭のてっぺんからつま先まで、良いエネルギー、新しいエネルギーを自分の身体に取り入れていきます。軽く目を閉じても構いません。自分のオーラを大きくしていくような感覚を持ちましょう。
最後に、息を吸いながら両手をぐっと持ち上げて、深呼吸します。ーーこれで終了です。ありがとうございました。
堂上:わずか1分なのに、気持ちがすっと整いました。小林さん、素晴らしい体験をありがとうございました!
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1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
https://ecotone.co.jp/