Wellulu Academy

公開日:  / 最終更新日:

心が元気ではじめて身体が動く!フィットネスからウェルネス時代へ【NESTA】

「心身の健康には、身体を動かすことで大切!」とよく耳にする。ただ、わかってはいるんだけれど、なかなか行動に移せない…。

そんな方々は、もしかすると「心」が元気じゃないのかも!

全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会の東山さんは、「フィットネスには心と向き合う時間も大切」と話す。「身体を動かすことで、自然と心も豊かになる」という通説ではなく、目指すべきところは心と身体の両立!そこで今回は、現代のフィットネスやパーソナルトレーニングのあり方・未来像について詳しくお話を伺った。

東山 暦さん

NESTA JAPAN 代表

アメリカ・シアトル生まれ。フィットネスビジネスとスポーツ心理学のスペシャリストとして、多くのプロアスリート・オリンピック選手の育成に携わる。2007年より全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA JAPAN)の代表を務め、アジアおよびアメリカのフィットネス業界に向けたコンサルティングやセミナー活動を精力的に展開。トレーナーの育成や企業の戦略支援を通じ、フィットネス業界の発展に貢献している。

本記事のリリース情報
Webメディア「Wellulu」にてインタビューを受けました!

目次

アメリカでは有資格者のみがなれる職業!パーソナルトレーナーとは

日本には無資格のトレーナーも多い

──本日はどうぞよろしくお願いします!

東山さん:どうぞよろしくお願いします。

──まず、協会ではどういった活動をされているのか、教えていただけますか?

東山さん:私たち全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会(NESTA)はアメリカ政府に認定されたパーソナルトレーナーの団体です。「パーソナルトレーナーの人口を増やすこと」を活動の目的に、おもにパーソナルトレーナー人材の育成をおこなっています。

1992年にアメリカ・カリフォルニアで設立され、2007年より日本支部の活動を開始しました。

──アメリカ政府認定とはどういうことでしょうか?

東山さん:資格を管理する第三者機関である「NCCA (National Commission for Certifying Agencies) 」 に認定された団体ということです。パーソナルトレーナーは、日本では資格を持たずとも活動できるのですが、アメリカでは資格が無ければできない職業なんです。

──日本では資格の有無が必須ではないのですね!

東山さん:そのため、極端に言えば、本人が「トレーナー」と名乗ってしまえば、誰でもトレーナーになれてしまうんです。つまり「自称トレーナー」です。大手のフィットネスクラブなどであれば資格が求められる場合が多いのですが、無資格で活動している人が多いので不安視しています。

──無資格のトレーナーによる指導で実際に問題が発生しているのでしょうか?

東山さん:資格を持たないトレーナーの指導は、科学的根拠などのきちんとした知識に基づいていなかったりするため、極端なケースではケガや健康を害することにつながります。実際に、無資格のトレーナーによる指導で利用者が負傷する問題が発生しています。

──消費者が危険にさらされるのはあってはならないことですね…。

東山さん:そうなんです。そのため、私たちはこの現状を非常に問題視していて、消費者の方々には、まずトレーナーが公式に認められた資格を持っているかを確認していただきたいです。資格を持つトレーナーの多くは「賠償責任保険」に加入しているので、ご自身の安全のためにも必ず確認をするようにしてください。

ウェルネスとは「心と身体の両方が健康な状態」

心が元気ではじめて身体が動く

──では、NESTAが考える「ウェルネス」とはどういうものでしょうか?

東山さん:私たちが考えるウェルネスは、非常にシンプルで「心と身体の両方が健康な状態」です。

──「心と身体の両方」というのがポイントですか?

東山さん:その通りです。たとえば、心が風邪をひいている状態では身体は動かないですよね。心の健康があってはじめて身体の健康がある。心が頭を動かし、頭が身体を動かすというのは日常生活でもスポーツでも同じです。そのため、心と身体の両方の健康を以てウェルネスだと考えています。

──心が元気でないと運動など身体を動かす気にもなれないですもんね。

東山さん:心も身体と同じように風邪を引きます。風邪を引いて体調が悪くなったら、みなさん病院に行って、診察を受け、お薬をもらいますよね。心も同じなのに、日本では心の健康に対するサポート体制が十分ではないなと感じています。

──アメリカではどうなのでしょうか?

東山さん:アメリカでは心の健康をサポートする環境がよく整っていると感じます。学校にはカウンセラーが必ずいて、生徒たちのメンタルヘルスをサポートしています。一方で、日本では学校にカウンセラーが配置されていない場合もまだまだ多いですね。

──心の健康をサポートする体制の整備がより一般的なのですね。そのほかに心と身体の健康を支えるものにはどういったものがあるのでしょうか?

東山さん:たとえば「食べること」がありますよね。あとは「飲むこと」も有効なツールだと思います。

一部の研究では、ワインがストレス解消や健康促進に役立つ場合があるとされているように、「心の健康」という視点で考えると有効なケースもあります。

もちろん、過度な飲酒はNG!適度に楽しむことが大切です。

──心の健康があってはじめて身体の健康がある、ですもんね!

東山さん:たとえば、心が風邪をひいてしまったり、失恋したり、仕事で落ち込んだりなど、心が健康じゃないときってありますよね。そんなときに「さてフィットネスクラブ行って身体を鍛えよう!」なんてならないですよね。まずは心の健康を整えることが、身体を動かすための第一歩なんです。

プロのアスリートの場合、試合といった本番はとても緊張します。

緊張すると身体が硬直したり、震えたりします。このような状態ではベストなパフォーマンスは発揮できません。心が不安定だと、どれだけ身体を鍛えていようと十分に力を発揮できません。それは一般の方々も同じで、「心のトレーニング」が大事になってきます。

──それこそ健康のためにフィットネスクラブに行かなきゃと思いつつも行動に移せていない人も多い気がします。

東山さん:まさに心の健康状態が整っていないことが背景にあると思います。多くの人は、健康になりたいとか、長生きしたい、美しくありたいなどの願望があると思います。でも実際にフィットネスクラブに足を運ぶ人は少ない。

健康診断や人間ドックで医師から肥満や高血圧、糖尿病予備軍だと注意され、自分の健康状態がよくないことを理解しつつも行動に移せてない人も多いと思います。

──耳が痛いです。私自身結局行ってないです…。

東山さん:「いきなりフィットネスクラブに行く」という選択肢しか日本にはないというのも一因だと感じています。これではさすがにハードルが高く感じるのもしょうがないと思います。

──「身体を動かすことで心が元気になる」とはよく聞くものの、心が健康かどうかに着目するというのは目からウロコでした。

心が疲れているときには「休息」が一番!

東山さん:心が疲れているときに一番大切なのは「休息」です。無理に身体を動かそうとせず、まずは身体を休ませましょう。家でゆっくりテレビを見るのもよいと思います。

その中でもとくに力を入れて欲しいのが睡眠です。休息の中でも、いかに効率よく効果的に睡眠を取るかは非常に重要なポイントです。

──日本人の睡眠事情はあまりよいものではないですよね…。

東山さん:そうなんです。日本は睡眠に問題を抱える人の数が世界でもトップクラスだと言われています。

──睡眠負債なんてワードも最近よく耳にします。睡眠のほかにも重要なものはありますか?

東山さん:その次には「栄養」つまり「食べる事」が重要になります。身体を動かすにはエネルギーが必要です。そのエネルギー源となるのが食べ物です。ただ食べるだけでなく、質のよい食事を摂ることが大切です。

この「睡眠」と「栄養」がしっかりと取れてようやく「休息」ができると思っています。

──「休息」の質も大切にしたいですね。栄養というとサプリメントなどに頼りがちだったり、実際にきちんと理解して摂れている人は多くないかもしれませんね。

東山さん:日本もアメリカも同様なのですが、現代ではあまりの情報過多により、その情報が果たして正しい情報かどうか判断が難しくなってしまっていると感じています。テレビやインターネット上で「これが身体によい!」と見かけると、すぐに飛びついてしまっている人も多いのではないでしょうか。

──ここ数年ではプロテインもかなり広く人気になりましたよね。

東山さん:たしかに健康によいものもあります。しかし、万人に合うわけではありませんし、自分に合うのかどうか、摂ってもよいものかどうか、理解しないまま摂取している現状が多く見受けられます。

パーソナルトレーニングについてちゃんと知る!

身体も内面も考慮した完全オーダーメイド

──パーソナルトレーナーというとトレーニングの指導のイメージが強いのですが、そのようなライフスタイルにも寄り添ってくれるのでしょうか?

東山さん:パーソナルトレーナーの仕事は、その人に合ったトレーニングプログラムを作ることです。これは、ただトレーニングを指導するということだけではありません。その人に合ったプログラムを提供するために、まずその人の状態を正確に把握する必要があります。

これを「アセスメント」と言うのですが、身体的なアセスメントだけでなく、内面的なアセスメントも重要なんです。

その人がどのような生活習慣を送っているのか、ストレスの状態はどうか、どのような食事をしているかなど、全体を理解した上で、トレーニングプログラムを作成していきます。

──身体だけでなく内面までトータルでサポートしてくれるのですね。

東山さん:これまでトレーニング経験がない人に、いきなり「走ってください」と言っても無理ですよね。なのでまずは「正しい歩き方」から始めます。歩き方を学んでから、次のステップへ進み、いずれ走れるようになるのです。

これはプロアスリートの場合も同じです。1年目には怪我をしない身体をつくるトレーニングをおこない、2年目には、1年間通して試合に耐えられる身体づくりをおこないます。これらを経て、ようやく3年目にしてプロとして戦える身体が完成するんです。

──プロのアスリートでも身体づくりだけで3年もかかるのですね!

東山さん:そうです。プロでも3年かかることなので、一般の人ならばもっと細かく順序立てて進める必要があるんです。

それにも関わらず、無資格のトレーナーにはきちんと順序立てたプログラムを作らないトレーナーが多いんです。

──ちょっと不安というか、怖くなってきました。

東山さん:これは非常に危険なことで、たとえるなら医師免許を持たない人に診断をしてもらうようなものです。私たちは消費者の方々に医師と同様に、きちんと専門知識を勉強して資格を取得したトレーナーから安心して指導を受けて欲しいんです。

パーソナルトレーニングは本当に高いのか?

──パーソナルトレーニングというとお金がかかる点で踏みとどまってしまう人も多いと思います。

東山さん:金額だけ見ると高く感じますよね。ただ、私たちがトレーニングプランを作る際、プロのアスリートであれば身体の状態を徹底的に把握するところから始めます。その情報をもとに、彼らには何が必要かを考え、1時間のトレーニングプランを組むのに4〜5時間もかかるんです。

──1時間の指導の裏には、相当な準備があるのですね。

東山さん:きちんと資格を持ち、責任を持っておこなっているトレーナーは、その人だけのための完全オーダーメイドのプランを作っています。

今日のトレーニングのテーマは何なのか、具体的にどのエクササイズをどう進めるか。最初の5分は何をして、次の10分はどうする、次の15分はどうするかなど、細かく計画を組んでいます。

また、トレーニングは大体12回で1クールなのですが、最初のトレーニングはどうするか、2回目、3回目はきちんと目標に向かってつなげられているか。もしダイエットが目標ならば、その目標達成を軸に、一つひとつが次のステップ、その次のステップにつながる形になっているんです。

──私もそうですが、4〜5時間もかかっていることを知っている人は多くないと思います。

東山さん:だからこそ、消費者の方々にもこのような機会に正しい知識を持っていただいて、高い消費者目線で「本当に信頼できるトレーナー」を選んでほしいんです。

──正しく選ぶための目を養うということですね。

東山さん:ぜひトレーニング前にトレーナーに「プランを確認したい」と言ってみてください。きちんと準備をおこなっているトレーナーはしっかりと説明できるはずです。逆にこれを提示できないトレーナーは、あまりよくないトレーナーの可能性があります。

──なるほど!自分の身体や健康を任せるものでもありますしね。

東山さん:トレーナーのレベルを向上させるためにも、生活者の目線や知識レベルを上げることが欠かせません。

──消費者自身が自分の身体のためにも意識を上げていく必要がありそうですね…。

子どもの部活動や健康教育を考える!心のトレーニングを経て社会へ

日本の部活動に驚愕!

──子どものウェルネスについてはどうお考えでしょうか?

東山さん:日本では現在、スポーツ議連や議員の方々が「部活動」について熱心に勉強されています。

──部活動ですか?多くの日本人の学生時代の思い出の1つだと思います。

東山さん:私自身はアメリカ出身なのですが、来日して部活動を知ったときは相当衝撃でした。正直に言うと、日本の部活動は「許せる範囲を超えている」と感じます。

──ええ!どういうことでしょうか?

東山さん:私は元々プロのテニス選手だったのですが、もし私が学校で数学を教えることになったら、保護者の方はどう思うでしょうか?疑問を持たない人はいないはずです。なぜなら、私はテニスのプロであっても、数学を教える専門家ではないからです。

では逆に、英語の先生がテニス部の顧問になり、テニスを教えることに対してはどうでしょうか?国語や数学の先生がほかのスポーツを教えるのも同じです。おかしいはずなのに、日本の部活動では「当たり前」とされている。これは大きな問題だと思います。

──言われるまで何も疑問を持たず過ごしてきましたが、その通りですね…。

東山さん:また、学校で勉強しているのに、別でお金を払って学習塾に通わせますよね。スポーツの場合、つまり部活動はどうでしょう?ほとんど無料ではないでしょうか。

──私の場合は、ウェアなどの必要な用具は購入しましたが、指導料に当たるものは一切なかったと記憶しています。

東山さん:学習塾では専門の講師が教えるため、その価値に対してお金を払っています。しかし、部活動でテニスや野球、サッカーなど無料で教えられる。つまり、日本ではスポーツの価値は「低く」見られているように感じるんです。

本来なら、テニス選手や野球選手、Jリーガーといったプロのアスリートが引退後に地域のスポーツスクールを運営し、専門家として指導をおこなえるはずが、部活動の存在が彼らの活躍の場を奪ってしまっているんです。

──部活動のあり方がアスリートの引退後の活躍の場にまで影響を及ぼしているとは予想外でした。

東山さん:このような現状のため、彼らはせっかく専門家であるにも関わらず、まったく異なる職業に就かざるを得ないんです。これは、スポーツ業界にとっても大きな経済的損失ですし、子どもたちの将来やスポーツへの参加率、健康に対しての参加率にもマイナスな影響を与えてしまいます。

──子どもたちのためにも引退後のプロアスリートの参加が望ましいのですね。最近「マルチスポーツ」というのもよく耳にします。

マルチスポーツと健康教育への意識が重要

東山さん:マルチスポーツの考えを取り入れるのはとても重要です。学校で1つの競技に絞ってそれだけを毎日やらせるのは、身体的によいものではありません。成長期の子どもたちには、さまざまなスポーツを体験させることが必要です。学校は「さまざまなスポーツを体験させる場所」であるべきだと思うんです。

──「さまざまなスポーツを体験させる場所」ですか。

東山さん:また、健康教育も重要です。たとえば、多くの日本人が直面する疾患であるにも関わらず、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など、成人病や生活習慣病について、学校ではほとんど触れられていませんよね。ほかにも、筋肉の名前や働き、トレーニングの基本など、健康についての知識を教えるべきなのです。

──子どもの頃から健康について知識を深めることが当たり前になれば、おのずと健康意識の高い大人に成長できそうですね。

東山さん:そうなんです。子どものころから健康についての知識を教え、どうやって病気を予防するのかを学ぶ。これによりフィットネス参加率アップや健康意識の高まりにつながるだけに留まらず、医療費の削減や健康寿命の延伸にもつながるはずです。

──学校教育が変わる、もっと充実していくことは将来的な面でさまざまなメリットがあるのですね。

東山さん:日本の体育教育は、第二次世界大戦前からほとんど変わっていません。少なくとも80年以上前から食事の内容や生活のスピードなど、多くのことが変化しているにも関わらず体育はアップデートされていないんです。

子どもたちは自分の身体や健康についての知識がほとんどない。でも「病気になってから対処する」よりも、健康を維持するためにお金を使うほうが圧倒的にメリットが高い。だから変わっていく必要があると強く感じています。

──子どもたちへの健康についての教育の重要性についてお聞きしましたが、家庭での向き合い方のアドバイスはありますか?

東山さん:子どもには、まず「楽しさ」を感じさせることが重要です。そして次に「安全」が同じくらい重要だと考えてください。「安全な環境で、さまざまなスポーツや体験をさせること」が大切です。

さらに、子どもに対してポジティブな声かけをおこない、モチベーションを高めてあげることも重要です。部活動で指導者に怒られた経験がある大人もいるかもしれませんが、否定的な接し方は決してしないでください。

どうやって大人になるのか?を学ぶ「大人になる方法」

──肯定的な姿勢で見守るのがポイントですね。アメリカでは小さいときから自立心を促すような文化があるんですよね。

東山さん:そうですね。私が幼いころの話なのですが、ある日両親に「今日はあなたの日だよ」と言われ、今日やりたいことを3つ選ぶ権利をもらえるんです。遊園地に行きたいか、動物園に行きたいかなど、自分で選択します。

実際にやってみて楽しいかどうかは自分次第。楽しくなくても「自分が選択した」から自分の責任なんです。こうしたプロセスを通じて、自分で選択することや責任を自然に学びます。

──親の決定事項に従うのではなく、子ども自身が選ぶというのが新鮮です。

東山さん:また、16歳になると、部活動のみんなで地域の人の車を洗って、自分たちのユニフォーム代などを稼ぎます。ここでは組織というものを学びます。

あとは、車の免許を取得し、車を運転することになります。車は便利な道具ですが、使い方を間違えれば人を傷つける凶器にもなり得ます。自分の行動には責任が伴うことを学ぶんです。

このように自立心を育てていき、18歳になると親元を離れるのがアメリカでは一般的ですね。

──大人になるまでのステップといいますか。学校でも同様の取り組みがあったりするのでしょうか?

東山さん:学校では、銀行口座の開き方やローンの仕組み、異性との付き合い方、同級生や先生とのコミュニケーション方法などを教えます。実際に私も教わってきました。

──とても興味深いです!日本にはない教育ですね。

東山さん:日本では「大人になりなさい」と言われることはあっても、「どうやって大人になるか」は教えられていないですよね。

──割と現実にぶち当たってみて学ぶということが多い気がします。

東山さん:私たちの協会では「大人になる方法」の教材も作っていて、実際に専門学校の教材にも採用されています。この教材では、まず「大人になるとはどういうことか」を教えます。たとえば、家を買うときの費用、子どもを育てるために必要なお金、生涯で獲得できる賃金などです。

これらを学んだ上で、「パーソナルトレーナーとは何か」といったパーソナルトレーナーの基礎教育に進むんです。このように順を追って学ぶことで、将来への不安を軽減できるんです。

心の準備をする「社会に出るためのリハーサル」

──これがまさに「心のトレーニング」につながるのですね。

東山さん:その通りです。プロのアスリートも試合前には「メンタルリハーサル」というのをおこなっていて、試合の状況を何度も頭の中でシミュレーションし、その場に直面したときの対応を練習します。

同じように、子どもたちにも「社会に出るためのリハーサル」をさせることが重要なんです。また、大人がたくさんの「引き出し」を見せてあげることも大切です。多くの選択肢を与え、そこから得られる経験を積むことで、社会で直面するさまざまな状況に対応する力を育むことができます。

──大人ですが、いまからでもやってみたいです。

東山さん:大人でもぜひ!実際、プロのアスリートで一般社会での活躍に困難を感じている人も多いため、大人でも必要性を感じています。

彼らはメンタルやフィジカルのトレーニングには精通しているものの、それを一般社会に応用する力を十分に学んでいないことが多いです。たとえば、アスリートとしての経験を経営やリーダーシップに活かせる力があっても、それをどのように社会で活用するかを教わっていないのです。だからこそ、心のトレーニングをもっと汎用的なものにしていくことで、アスリートも社会でさらに活躍できるようになるはずだと思っています。

──心のトレーニング、おもしろいです。

自分自身の健康に責任を持つ・知識を持つことの重要性

──日本のフィットネス業界の現状を教えてください。

東山さん:コロナ禍はフィットネス業界に大きな衝撃を与えました。フィットネスクラブの多くが厳しい状況に直面し、従業員を解雇せざるを得なくなりました。その結果、多くのトレーナーが独立し、小規模なトレーニングスタジオが急増しました。

──最近よく聞く「マイクロジム」ですね。

東山さん:その通りです。トレーナーが自分のスタジオを持つことにより、個別のニーズに応じたトレーニング提供が可能になり、パーソナルトレーニングの需要も飛躍的に伸びました。

需要増加の裏でトレーナーの質のばらつきも気になりましたが、現在は少し落ち着いてきて、長く続けられているのは専門知識を持つ本物のトレーナーが多いですね。

──パーソナルトレーニングの需要が増加したことで、利用者の健康意識もより高くなってそうですね。

東山さん:ここ数年で健康意識は飛躍的に向上しましたね。よい傾向だと感じています。また、利用者のニーズも高度化・細分化していて、これまでのように「ただ筋肉をつけたい」「痩せたい」だけではなく、より具体的な目標を持つ人が増えています。

──実際に、何か健康意識の高まりを感じる出来事はあったりしますか?

東山さん:コロナ禍をきっかけに、女性のフィットネス参加率が急激に上がっていて、パーソナルトレーナーの資格を取得する女性も増加しています。

10年前は女性のトレーナーは全体の2%程度だったのに対し、現在は私たちの協会で資格を取る人の約70%が女性です。非常に面白く感じています。

──ウェルネスに対しての感度が高まっていますね!

東山さん:ただ、情報が正しいかどうかを見極める力がまだまだ不足している点は課題点かなと思っています。

アメリカだと、どのジムでどのメーカーのフィットネスマシンが使われているかというのは、利用を検討する際に重要視される条件の1つなんです。信用できないメーカーのマシンを導入しているジムには決して通いません。

一方で、日本ではどうでしょうか。どのメーカーのフィットネスマシンを使っているか、しっかり見極めてジムを選ぶ人はまだまだ多くないと思います。粗悪品とわかって導入するジムや業界も悪いですが、消費者の知識レベルを上げたり、正しい情報を見極める力を育てることが非常に重要なのです。

──マシンの品質は安全にも直結しますよね。最後に、日本のフィットネス業界はこれからどうなっていくと思われますか?

東山さん:ますます日本では、健康意識が向上していくと思っています。とくに超高齢化社会の中で、親世代の健康をサポートする子どもたちの健康への感度は一気に上がってくると思います。

──子どもたちの教育といった面ではいかがでしょうか?

東山さん:共働き家庭が多くなっていますが、だんだんと子どもたちが夏休みや冬休みを健全に過ごせる場所が減ってくるかもしれないと思っています。10年、20年前ならば地域でのキャンプや活動も活発におこなわれていましたが、現在ではそういった機会も少なくなっています。

このような状況の中で、子どもたちに「大人になる方法」や「メンタルトレーニング」、さらには「健康教育」を提供するクリニックやプログラムを実施するのも素敵だなと思っています。単に過ごす場所を提供するだけではなく、自立を促したり、自主性を育む機会を作ることになると思います。

──とても素敵ですね!本日はありがとうございました。

Wellulu編集後記:
今回、日本とフィットネスの現状や課題点をフィットネス大国・アメリカとも比較しながら伺いました。健康のためにも運動をしないとと思いつつ、取り掛かれていない…それは「心の健康」が整ってないのでは?という視点には驚きました。また、より安全で確実な健康につながる一歩として、トレーナー選びはもちろん、トレーニングやマシンのメーカーなど、私たち消費者自身の知識レベルをもっと上げていくことが、私たちがまずできることではと感じました。

RECOMMEND

←
←

Wellulu Academy

子どもとのスマホルールはどう決める?社会心理学者に聞いた上手なスマホ育児の活用法とは?【久留米大学・浅野准教授】

Wellulu Academy

スポーツの夢をかなえるために!アスリートへの道筋を学ぶ【日本スポーツ振興センター】

Wellulu Academy

新品同様に生まれ変わる!長く使い続けるための羽毛布団の「リフォーム」とは【フランスベッド】

Wellulu Academy

その身体の悩み、実は姿勢が原因かも?首・肩・腰の痛みやコリを和らげるコツとは【MEDIAID】

Wellulu Academy

現代人の生活ではコア(体幹)がどんどん衰えていく?「コアコンディショニング®︎」で今日からケアをはじめよう【JCCA】

WEEKLY RANKING

←
←

Others

インナーマッスル「腹横筋」の鍛え方!おすすめの筋トレメニュー・ストレッチ

Others

ダンベルを使った筋トレメニュー14選!部位別のおすすめ種目・1週間メニューも紹介

Wellulu Academy

【フードホラー】世間に広がる“食のうわさ”は本当か?豊かな食生活を守る正しい選択【日本ダイエット健康協会】

Others

【腹筋】クランチの正しいやり方!種類・効果・回数・鍛えられる部位

Others

2週間で痩せられる? ダイエットを成功させるおすすめの食事・運動法を紹介