朝起きると身体が痛い、夜中に蒸れて目が覚めるなど、少なからず睡眠の悩みを抱えている人も多いのでは?もしかしたら、毎日使っている寝具の素材に原因があるかもしれない。寝具の素材には、それぞれに強みと弱みがあるのだ。
今回は、質の高い眠りを追求する寝具メーカーの浅尾繊維工業株式会社代表取締役・浅尾大介さんに、寝具の素材ごとの違いや悩みに合わせた選び方を伺った。

浅尾 大介さん
代表取締役社長
最高の眠りは素材の個性で決まる

── まず、布団の素材にはどんな種類があるのか、教えてください。
浅尾さん:大きく分けると、布団の素材には天然素材と人工素材の2つがあります。天然素材は、さらに羽毛や羊毛のような動物系と木綿や麻などの植物系に分かれます。人工素材の代表はポリエステルですね。これらが基本的な分類で、機能によって枝葉が分かれるイメージで、種類が分かれています。
── なるほど。それぞれどのような特徴があるんですか?
浅尾さん:動物系に分類される羽毛は、高い保温性と湿気を吸って外に出す吸放湿性を持つのと、軽さが特徴です。同じ動物系のウール(羊毛)も保温性や吸湿性に優れています。植物系の木綿は湿気はよく吸いますが、水分を放出する能力は低め。
一方で、同じ植物系の麻は吸湿性も速乾性も高いので、サラッとして気持ちいいんです。そして人工素材のポリエステルは、軽さとホコリが出にくいこと、加工しやすいのが特徴ですね。
軽さ・暖かさを求めるなら羽毛
── 素材によって得意なことがまったく違うんですね。夏場には麻がいいとのことでしたが、冬に最適な軽さと暖かさで選ぶなら、どの素材がおすすめですか?
浅尾さん:やはり羽毛がおすすめですね。暖かさはもちろん、身体にフィットしてすき間ができにくく、寝ている間の湿気を調整してくれるので快適なんです。最近は、ポリエステルに特殊な加工をして暖かさを追求した商品もいろいろ出ていますが、総合的に見るとやはり羽毛がおすすめです。
蒸れの悩みは天然素材で解決
── 暖房をつけた部屋だと逆に汗をかいて蒸れてしまうこともありますよね。蒸れにくさという点では、どの素材がおすすめでしょうか?
浅尾さん:蒸れにくさの解消も、やはり羽毛や羊毛などの天然素材が得意な分野です。とくに日本の夏は湿度が高いので、どうしてもポリエステルなどの人工繊維だと蒸れやすく感じてしまいます。
実は、最近は夏でもクーラーをつけて薄手の羽毛布団を使う人が増えているんですよ。吸放湿性の高さから快適に眠れると好評なんです。
── 夏に羽毛というのは意外でした。住んでいる家のタイプによっても、おすすめは変わりますか?
浅尾さん:はい、変わりますね。最近は気密性の高いマンションが増えているので、冬でも暑いと感じる人が多いです。そういった住宅状況から、羽毛の量が1キログラム前後の「合掛け」や「軽量布団」を、エアコンと併用しながら通年で使う人が増えています。ご自身の生活環境に合わせて快適な布団を選ぶのが、大切です。
【補足】羽毛布団の充填量の目安(シングルサイズ)
- 冬用(本掛け):約1.2kg〜1.3kg
- 春秋用(合掛け):約0.7kg〜1.0kg
- 夏用(肌掛け):約0.3kg〜0.5kg
季節や住環境に合わせて、羽毛の量を選ぶことが快適な睡眠につながります。
敏感肌の人や子どもに合った素材は?
── なるほど。では、肌が敏感な人や小さいお子さんに合う肌触りのよい素材についても教えてください。
浅尾さん:肌触りのよさでいうと、綿やガーゼ、シルクなどの素材が挙げられます。ただ、これらの天然素材はご家庭で気軽に洗うのが難しいという側面もあります。洗えないと、ホコリやダニなどがどうしても蓄積してしまい、アレルギーの原因になりかねません。
もしアレルギー対策を優先するなら、ホコリが出にくくて、ご家庭で丸洗いできるポリエステル素材もよい選択肢になります。洗えるかどうかは、アレルギー対策の点でとても重要なポイントなんです。
買い替えだけではなく、リフォームという選択肢

── よい寝具を購入するならできるだけ長く使いたい人が多いと思います。素材によって寿命に違いはあるのでしょうか?
浅尾さん:まったく違いますね。天然素材のほうが耐久性は高いです。天然素材の羽毛や羊毛なら10年〜15年、一方で人工素材のポリエステルだと3年〜5年が一般的な目安になります。使い方によっても異なります。
── そんなに違うんですね!正直なところ、いつ布団を買ったか覚えていない人も多そうです。買い替えのタイミングはどのように判断すればよいですか?
浅尾さん:おっしゃる通りで、具体的に何年使っているかを把握されている人は少ないんです。「暖かさを感じにくくなった」「なんだか臭いが気になる」「生地が破れてきた」などの変化を感じたときが買い替えやメンテナンスを考えるサインになります。
── 10年使った羽毛布団だと、買い替えるしかないのでしょうか?
浅尾さん:いえ、羽毛布団なら中身を取り出して洗浄・乾燥させ、新しい生地に充填するリフォームができます。木綿の布団も打ち直しといって、固くなった綿をほぐし直すことができますよ。
── リフォームの場合、買い直すよりも費用は抑えられるのでしょうか?
浅尾さん:グレードによりますが、同じ品質のものを新しく買うよりリフォームするほうが安く済む場合が多いです。それに、大切な資源を長く使えるというエコの観点からリフォームに関するお問い合わせがすごく増えていますね。
忙しい人でもできる!寝具が長持ちする簡単ケア

── 寝具を長持ちさせるために、普段からできる簡単なお手入れ方法を教えてください。
浅尾さん:大事なのは、とにかく湿気を溜めないことです。布団を敷きっぱなしにせず、椅子などに掛けておくだけでも全然違います。あとは、週に1回は布団乾燥機をかけたり、部屋の風通しをよくしたりするのも効果的ですね。
── ついやってしまいがちですが、天日干しはどうですか?
浅尾さん:羽毛布団の生地はすごく繊細なので、強い日差しは逆に生地を傷めてしまう原因になってしまいます。羽毛はもともと吸湿発散性が非常に高いので、風通しのよい場所で陰干しするだけで十分です。
あとは、必ずカバーを付けてカバーはこまめに(週1回くらい)洗濯すること。これが本体を汚さず長持ちさせる秘訣です。
あなたに合うのはどれ?天然素材or人工素材の最適解

── ここまでのお話しで、素材ごとの特徴がよくわかりました。生活者が自分に合った1枚を選ぶために、天然素材と人工素材の特徴を改めて整理していただけますか。
浅尾さん:はい。まず天然素材は、保温性や吸湿性などの機能面の高さが大きな強みです。ただ、クリーニングなどのお手入れに手間がかかったり、価格が高くなったりしがちです。
一方で人工素材は、軽くて家庭で洗えるものが多く価格も手頃なのが多いですね。天然素材に比べると吸湿性が低いため蒸れやすかったり、耐久性が少し低かったりと機能面が少し劣ります。
── なるほど。機能面を最優先にするなら天然素材、手入れの手軽さや価格を重視するなら人工素材というのが基本的な考え方になりそうですね。
浅尾さん:まさにその通りです。どちらが良い・悪いというわけではありません。ご自身のライフスタイルや睡眠の悩みによりフィットするのはどちらなのか、それが心地よい睡眠への近道になります。
家で洗いたいを叶える素材は?

── 清潔さを重視して、家で手軽に洗えるものがよいという人も多いと思います。その場合は、やはり人工素材がベストな選択になりますか?
浅尾さん:そうですね。ポリエステルに代表される人工素材のほとんどは洗えるように作られています。ただ、最近は天然素材でもウォッシャブルウールのように、特殊な加工でご家庭で洗えるようにした製品もありますよ。
天然素材=洗えないと決めつけず、洗濯表示をしっかり確認していただくのがよいと思います。
これからの時代のエコな寝具
── 最後に、エコやサステナビリティの観点から、長く使い続けるのにおすすめの寝具はありますか?
浅尾さん:やはり、品質がよくて長持ちする寝具を選ぶというのがエコな選択だと言えます。長持ちして、リフォームもできる羽毛布団はサステナブルな製品の代表です。
最近では、使われなくなった羽毛布団から羽毛を回収して再利用するリサイクルダウンの取り組みも広がっていますね。
── 自分に合った素材を選び、正しく手入れをすることが、心地よい眠りとサステナブルな暮らしの両方につながるのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!
1974年生まれ。1998年浅尾繊維工業株式会社へ入社。大阪営業所勤務、その後本社製造部、営業部を経て、2018年代表取締役社長就任。2027年、創業150周年を迎える。
公式HP:https://asaoseni.net