脱炭素社会の実現に向け、太陽光や風力とならんで注目されるバイオマス発電。植物由来の燃料を燃やすこの方法が、なぜ環境に優しいと言われるのか?
今回は、国内で先駆けてバイオマス発電事業に着手し、燃料開発から発電、小売までを一貫して展開するエネルギー企業のイーレックス株式会社に取材。単に燃料を燃やすだけではない、徹底した管理体制と、真摯な企業努力を伺った。
この記事の監修者

イーレックス株式会社
天気任せにしない。安定して使える再生可能エネルギーの正体
── そもそもバイオマス発電とは、どういった発電方法なんでしょうか?
イーレックスさん:バイオマス発電とは動植物由来の有機物(バイオマス)を燃料にして発電する方法です。原料は間伐材や建築廃材などの木材、農産物の収穫に伴って生じる農産物残渣、食品廃棄物、家畜ふん尿などさまざまな種類があります。当社では主に、パームヤシの種からパーム油を採油した後のパームヤシ殻(PKS)や木質ペレットを利用しています。
── 植物由来の燃料なんですね!私たちが毎日使っている電気は、ほかにどんな方法で作られているのでしょうか?
イーレックスさん:みなさんのご家庭に届く電気は、火力や原子力、風力、太陽光、水力、地熱、そしてバイオマスなど、さまざまな発電方法で作られたものがミックスされています。
その中でバイオマス発電が占める割合は現状3~4%ほどです。国が掲げる目標として、太陽光や風力などの自然電源やバイオマスなどを含めた再生可能エネルギーの比率を2023年度22.9%に対し、2040年度には40~50%にすることが挙げられていますが、その中でバイオマス燃料の目標は5~6%程度です。
これは経済性と環境性のバランスが考えられています。再生可能エネルギーを無理に増やしすぎると、再生可能エネルギー発電促進賦課金(ふかきん)という形で国民のみなさんの負担が増えてしまう可能性もあるため、適切なバランスでカーボンニュートラルを目指していくのが日本の方針なんです。

── 再生可能エネルギーといえば太陽光や風力のイメージが強いですが、あえてバイオマスを使うメリットは何ですか?
イーレックスさん:一番のメリットは安定性です。太陽光発電や風力発電はどうしても天候に左右されてしまいますが、バイオマス発電は燃料さえあれば24時間安定して電気を作り続けられます。
また、物を燃やすので二酸化炭素が出ると思われがちですが、燃料となる植物は成長過程で光合成によって二酸化炭素を吸収しています。燃焼時に出る二酸化炭素は、もともと植物が吸収していた分が大気中に戻るだけなので、トータルで見れば二酸化炭素量がプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルな発電方法なんです。
設計ミスなら数億円の損失?燃料選びの壮絶な裏側

── カーボンニュートラルの仕組みがよくわかりました。燃料としてパームヤシ殻に着目したのはなぜですか?
イーレックスさん:もともとパームヤシ殻は、パーム油の生産地である東南アジアでは廃棄物として捨てられていたんです。しかし、「パーム油分をよく含んでいるし、もしかしたら燃料になるんじゃないか?」と目をつけたのが始まりです。
廃棄物として捨てられていたものに価値を見出し、発電のエネルギーに変える。そういった視点の転換から今の事業が始まっているんです。
── 廃棄物の山が宝の山に変わったんですね。燃えればなんでもいいというわけではないんですか?
イーレックスさん:そこが一番難しいところです。実は発電所のボイラーというのはとても精密な機械で、使う燃料や出力に合わせて設計されています。
当社のボイラーは比較的さまざまな燃料を燃やせますが、燃料の種類や水分量、使用量を基準に建設するので、あとからもっと安い燃料が見つかっても、決定した基準より大きく離れる燃料を使用するのは難しいんです。
もし燃料を変えるなら、設備改修に十数億円もかかることもあるんです。
── 十数億円……!それは後戻りできない決断ですね。
イーレックスさん:そうなんです。だからこそ、発電所を作る前の計画段階から「今後、この燃料を長期的に、安定して確保できるか?」を徹底的にシミュレーションしなければなりません。
途中で燃料がなくなったり、規格が合わなくなったりしても、燃料の変更が容易にはできない非常にシビアな世界なんです。
── イーレックスさんが、パームヤシ殻のほかに燃料として使用している木質ペレットについても教えてください。
イーレックスさん:木質ペレットは、間伐材や製材時などに発生する木くずやなど廃材となる木材を圧縮して固めたものです。バイオマス発電の燃料は副産物や廃棄物を使用するので、燃料にするためだけに天然林の伐採や加工はできないんですよ。
木の伐採により自然破壊をしていないか、児童労働が行われていないか、どういった産地で伐採された木材でその履歴を辿れるかなどの確認も必要です。日本では、こういった内容をクリアして国際的な認証を得ているものでなければ、バイオマス燃料として使用できない取り決めになっています。
── 木材にも、国際的な認証制度があるんですね。
イーレックスさん:実はこの認証制度は、みなさんの生活にも溶け込んでいるんですよ。文房具やお菓子のパッケージ、チェーン店の紙カップなどに、FSCというマークがついているものがあると思います。
これはFSC認証を取得している証で、環境・社会・経済の観点で適切に管理された森林から生産された木材・紙製品や、その他のリスクの低い林産物を使用した製品である証明なんです。
FSC®認証についてはこちら:https://jp.fsc.org/jp-ja/about_FSC_certificate
※イーレックス株式会社ライセンス番号:FSC-C192863
まるで飛行機の管制塔のような管理。発電所を止めないための着実な燃料調達

── バイオマス燃料の選定だけでそれほどの苦労があるとは驚きです。燃料を海外から運んでくるときにも、気を遣う部分があるのでしょうか?
イーレックスさん:そうですね。燃料として燃やすため、水分量にはとくに気を遣います。船での輸送時は毎日が天気との戦いです。
現地でスコールが降って燃料が濡れてしまうと、水分量がものすごく多くなってしまうので、乾かす時間を設けてから燃料として使用します。1%以下の数値で水分量を管理して、燃料としてボイラーにかけていいかを判断しています。
── そこまで緻密な品質管理が求められると、燃料の安定供給が課題になりそうですね。
イーレックスさん:そうですね。日本国内の燃料を利用している発電所もあれば、当社のように東南アジアから輸入した燃料を利用している発電所もあるので。また、輸入の手法には、現地の燃料事業者から買い付ける方法、日本商社から買い付ける方法、現地に子会社を持ち買付・保管をおこなう方法の3つがあるので、適宜使い分けながら安定供給をしています。
ただ一番の問題は、やはり現地から日本まで燃料を運んでくるときのスケジューリングですね。
── 日本までスケジュール通りに運ぶために、どのような方法をとっているんですか?
イーレックスさん:当社の場合は、自分たちで船を手配して管理しています。これが、けっこう地道な作業なんです。
担当者が毎日「今、船は太平洋のどの辺りにいますか?」「台風が来ているからルートを変えましょう」と、船会社と直接連絡を取り合っています。密な連携をとることで、ボイラー稼働に影響が出ないように気をつけています。
── 飛行機の管制塔と同じことを、海でやっているんですね。
イーレックスさん:燃料が届かなければ発電所が止まり、みなさんの生活に影響が出てしまいます。だからこそ、必死に物流をコントロールして燃料の安定供給を保っているんです。
コンセントの向こう側を想像する。今日からできる電気の選択

── 電気が届くのが当たり前ではないと痛感しました。数億円のリスクを背負った設計や、嵐の中を進む船の管理など、これほど多くの人の思いが重なっているとは想像していませんでした。
イーレックスさん:そう言っていただけるのは嬉しいですね。コンセントの向こう側には、燃料を作る人、運ぶ人、発電所を守る人など、発電方法の種類に応じてたくさんのドラマがありますから。
今回は、当社がおこなっているバイオマス発電の話が中心でしたが、再生可能エネルギーを利用した発電方法はさまざまです。発電方法の特性に応じて、ちょうどいい割合でさまざまなエネルギーを利用していく必要があります。
もし、電気から環境を考えたいと思っていただけたなら、現在利用している電力会社のプランをチェックしてみてください。CO2フリープランや再生可能エネルギー比率の高いプランを選ぶことで、電気の利用を通じて環境問題に貢献できます。
食品や日用品などサステナビリティを考えた消費が、一種のトレンドになりつつあると思います。毎日当たり前に供給されるものなので意識しづらいですが、電気も生活に根差した消費の1つです。ぜひ目を向けてもらえたらと思います。
── 電気から環境を考えるヒントをいただけてよかったです。最後に、イーレックスさんの今後の挑戦について教えてください。
イーレックスさん:国内の主力事業である小売電気事業にシナジーを生みだす、アグリゲーション事業の促進に加え、ベトナムやカンボジアなど、東南アジア諸国への展開にも力を入れています。具体的には、経済成長で電力が足りない国々に、私たちが培ったバイオマス発電の技術を広げていきたいと考えています。
ベトナムなどでは、未利用の木くずが多く廃棄されている現状があるんです。現地の未利用資源を活かして、バイオマス発電をすることで、経済成長と脱炭素化のお手伝いがしたい。それが結果として、世界の再生可能エネルギー比率の引き上げにつながれば、地球全体の環境を守ることができます。
アグリゲーションとは
発電所や蓄電池から流れる電気をまとめて、バランスよく行き来するために調整をすることで、司令塔のような役割を担うもの。
電気は使う量と発電する量を常に一致させる必要があるため、再エネ電源の様な不安定な発電所が増えることでアグリゲーションの機能が重要。
── 日本だけでなく、アジアの未来も照らしていく取り組みですね。本日は、バイオマス発電の実態と苦労、プロフェッショナルとしての覚悟や熱量に触れることができました。貴重なお話をありがとうございました。
電力の自由化を機に1999年に設立したエネルギー会社。電力小売・トレーディングに加え、バイオマス燃料事業やバイオマス発電事業を展開し、燃料調達、発電から需要家への電力小売まで一貫した体制を構築。海外ではバイオマス発電所等の開発やサプライチェーンの強化を進め、脱炭素社会の実現に向け、環境対応と経済成長に貢献。また、これまでの運用力を集結し、電力需給バランスを調整するアグリゲーション事業や、再生可能エネルギーなどからクレジットを創出するカーボンクレジット事業も展開していく予定。
HPなど: https://www.erex.co.jp/