Biz 4 Well-Being

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「普通じゃない」は、同時に可能性を秘めている。福祉×アートで岩手から新たな文化を生み出す〈ヘラルボニー〉

「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害のある人が活躍できる社会を目指す、株式会社ヘラルボニー。その取り組みが注目され、近年では経済産業省が主催する「日本スタートアップ大賞」や、世界を変える30歳未満の30人として 「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」に選出されるなど数多くの賞を受賞している。

「障害者だって同じ人間なんだ」。悲痛な叫びのようにも聞こえるこの言葉は、当時小学4年生だった少年が書いた作文のタイトルでもある。今の社会において、この小さな声はどこまで届いているのだろうか。今回は、株式会社ヘラルボニーを設立し共同代表を務める双子の兄、松田文登さんに話を伺った。

 

松田 文登さん

株式会社ヘラルボニー 代表取締役Co-CEO

ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にへラルボニーを設立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーの営業を統括。岩手在住。双子の兄。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。
https://www.heralbony.jp/

左 達也さん

Wellulu 編集部プロデューサー

福岡市生まれ。九州大学経済学部卒業後、博報堂に入社。デジタル・データ専門ユニットで、全社のデジタル・データシフトを推進後、生活総研では生活者発想を広く社会に役立てる教育プログラム開発に従事。ミライの事業室では、スタートアップと協業・連携を推進するHakuhodo Alliance OneやWell-beingテーマでのビジネスを推進。Wellulu立ち上げに伴い編集部プロデューサーに就任。毎朝の筋トレとランニングで体脂肪率8〜10%の維持が自身のウェルビーイングの素。

社会に対する疑問が生まれたのは、障害のある兄の存在

左:ウェルビーイングを目的や概念とするならば、その手段であるウェルフェア(welfare=福祉)への理解を深めることや考えることも重要なことだと思っています。まずは、一般的にはスタートアップとは遠いと思われがちな、福祉という領域での創業の経緯について教えていただけますか?

松田:はい。きっかけとして大きいのは、やはり4つ上の兄の存在ですね。兄には自閉症という重度の知的障害があり、それによって私たち兄弟は「かわいそう」といわれることが多く、世の中にはこういったアンコンシャスバイアスが存在しているということを、幼い頃から感じながら生きてきました。いつも、障害者だって同じ感情を持った人間なのに、と思っていて、僕は小学4年生の時にそういったテーマで作文も書いています。そこからは自然な流れで、兄と同じような障害のある人たちに関わる仕事がしたいと思うようになりました。

左:「ヘラルボニー」という社名の由来は、お兄さんがノートに記した言葉だそうですね。まさか今回、実際にそのノートを見せていただけるとは。ありがとうございます。

“ヘラルボニー”という名は、両代表である松田崇弥氏・文登氏の兄である翔太氏が7歳の頃に複数の自由帳に記した言葉

松田:こちらこそ、貴重な機会をいただけてうれしいです。彼らのいわゆる「普通じゃない」部分は、障害によるものでもあると思うんですけど、同時に可能性であるとも考えています。ゆえに、ヘラルボニーのミッションはあえて「異彩を、放て。」と表現しているんですね。

左:まさに今の時代、世界的にも必要とされている考え方ですよね。「障害」を別の言葉で表現するとしたら、その人の「癖」や「こだわり」みたいに言い換えられることもありますし、個性の延長と捉えることで、全然違ったコミュニケーションが生まれるような気もします。

松田:それは大いにあると思います。こういった視点や考え方は、これから教育や仕事の現場でも求められてくるのではないでしょうか。たとえば勉強だったら、苦手なことを克服するよりも得意なことを伸ばしたりチャレンジしたりすれば良いと思うし、仕事だったら事務が得意な人もいれば、アイデアを活かした仕事じゃないと能力を発揮できない人もいる。その人の特性と生かせるフィールドが上手くマッチすれば良いんですよね。

福祉×アートで社会を変えることで、障害者の生き方も変わる

左:ヘラルボニーのサイトにある“福祉実験カンパニー”というのも気になりました。ここにはどういった意図があるのでしょうか。

松田:なぜ、私たちが株式会社として事業を行っているかということにも関係してくるのですが、ヘラルボニーでは主に、障害のあるアーティストとライセンス契約を結ぶことで、彼らのアート作品を販売しています。障害者の作品というと、そのものの魅力の前に支援といったイメージが強く、日本の障害者支援制度によって支払われる平均賃金(工賃)がわずか月額1万5千円前後という現状があります。

画像提供:ヘラルボニー

松田:一方で、当社では所属するアーティストが確定申告を行うといった事例も出てきました。要するに、私たちは彼らの存在がなければ支援どころか食べていくことすらできません。こういった事実を社会に提示すること自体が、多くの人たちの視点を変えることに繋がっていくんじゃないかと考えているので、そのためにはトライ&エラーを繰り返しながら成長していきたいなと思っています。

2021年4月に岩手県盛岡市に開館した「HERALBONY GALLERY」。全国の障害のあるアーティストが描く作品を岩手から世界へと発信している

左:まずは私たち一人ひとりが障害者へのバイアスをはずすことが、社会全体の変化につながっていきますよね。

松田:社会の中での身近な変化というのは、たとえば自分の兄が大きな声や奇声を発しながら街中を歩いていたとしても、そこでサーッと人が引いていくんじゃなくて、ただただ見守ってくれたり、そっと手を差し伸べてくれたりする人の割合が増えていくみたいな。そういうことなんじゃないかなと思うんです。それによって、最終的に障害のある方たちの生き方も変わっていくのではないかと考えています。

マイノリティからマスカルチャーへ。地元へ還元する根底に宿る、ヒップホップの精神

左:2023年12月には盛岡市との包括連携協定を結ばれたということで、地域から社会課題解決に向けて動いていこうとされているお話も聞かせてください。

松田:まず地元である岩手・盛岡に自分たちの場所を構えるということは、自分たちなりの意思表示でもありました。ヒップホップでいうところのレペゼン(represent=代表する)みたいな感覚です。私たち双子はヒップホップが好きなんです(笑)。

左:そうなんですか。ヘラルボニーとヒップホップ、なんだか意外な関係性ですね。

松田:単に音楽ジャンルとしてではなく、スタイルやカルチャーそのものに惹かれていて、ヒップホップは多様性を体現する教科書でもあると思っています。たとえばローカルに根ざしたラッパーがいて、地元に対する思いやアイデンティティみたいなものを伝え続けて、それを外に向けて発信しているとします。その人が東京あるいはニューヨークみたいな世界の都市で売れたとしても、最終的には地元に還元をしていく。そういうスタンスにすごく共感するんですよね。

ラッピング電車(JR釜石、東北線「快速はまゆり」)は岩手県出身のアーティスト、田崎飛鳥氏の作品。色とりどりの木々が描かれ、東北の豊かな自然を連想させる(画像提供:ヘラルボニー)

左:本当の意味で地元に根ざしてやっていくぞ、というメッセージでもあるんですね。

松田:それともうひとつ、ヒップホップに親和性を感じるのは、抑圧や困難と戦うマイノリティから生まれたカルチャーでもあるということでしょうか。ヘラルボニーがやっていること自体も、社会的にはマイノリティといわれる人たちの存在や声なき声を社会へ向けて発信しているので。デモ的な手段や解決方法ではなく、アートというフィルターを通じて障害を持つ人たちのイメージや概念を変えていきたい。そして、軸となる部分はぶれずに最終的にはマスカルチャーにしていきたい。そういった意識は常に持っています。

アートを接点とした障害者福祉へのエデュケーションと可能性

左:盛岡市は2023年、ニューヨーク・タイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」にも選ばれましたが、松田さんが感じるこの街の魅力はどんなところでしょうか。

松田:歴史的建造物が残っていたり、コーヒーやジャズ、アートの文化がちゃんと根付いていたりという点が評価されたようですね。コンパクトな街なので、歩いて楽しめるというのも魅力のひとつになっていると思います。なので、新しいものをどんどん取り入れてイノベーションを起こしていこうとする県民性とは違っていて、残すべきものを残していくといった考えを持つ人が多いのかもしれません。

左:景観も美しいですし、文化が残っていくためのまちづくりを意識的に行っている部分もあるんでしょうね。

松田:そういった部分はすごく重要だと考えていますし、この街で創業しているからこそ、私たち自身もいい街だと思えるようなことをやっていきたいと思っています。宮沢賢治の『農民芸術概論』の中に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉がありますが、そういう思想そのものが根付いているんじゃないかとか、そこを研究して立ち戻るのもおもしろいんじゃないかという議論もあるみたいです。

鳥取市にある「一般社団法人 アートスペースからふる」に在籍する福井将宏氏の作品。2023年、ギャラリーでは企画展「flowers」が開催された(画像提供:ヘラルボニー)

左:なるほど。宮沢賢治さんに立ち戻ってみるんですね。地域の特色を生かした事業を行っていきたいということですね。現在、具体的にはどういった取り組みをされているのでしょうか?

松田:岩手県北自動車株式会社、株式会社みちのりホールディングスとの共創の取り組みとして運行している「ヘラルボニーバス」は、バスラッピングに加えて地元中学校との特別授業を行いましたし、最近では修学旅行のスポットとしてこのギャラリーを選んでいただく事例などもあります。

盛岡市内〜近郊市町村への路線バスとして運行している「ヘラルボニーバス」。2021年の盛岡新バスセンター工事の際、仮囲いに工藤みどりさんが描いたバスの絵を基に制作された(画像提供:ヘラルボニー)

左:ヘラルボニーギャラリーが修学旅行のスポットになるのは、素晴らしい機会ですね。10代の頃の経験ってきっと記憶に残ると思いますし、最初の接点が障害や福祉ではなくて、アートっていうのも良いですね。気づいたら多様性への学びにも繋がっているというか。

松田:私たちの起業のきっかけには幼い頃の原体験があるんですけど、小さいうちから学びの機会を得たり理解を深めてもらうためにも、教育という分野にはどんどんアプローチしていけたらと思っています。

世の中の常識や固定概念を覆し、新しい価値観を作っていくということ

画像提供:ヘラルボニー

左:ちなみに、松田さんがウェルビーイングを感じられる瞬間というのはどんな時ですか?

松田:やっぱり子どもと一緒に過ごしている時ですかね。今3歳なんです。でもこれをいったら、最近ずっとバタバタじゃんって妻にいわれてしまいそうです(笑)。あとは日々SNSを見ていると、「アーティストさんのファンになった」「作品がすごく素敵」「ヘラルボニーのおかげで障害者の概念が変わった」といったように、ヘラルボニーについて書いてくれている方がすごく多くて、いろんな発信があるんですね。そういうのを見ると、今までなかった社会の小さな変化や動きを実感できて、その瞬間というのは自分にとってもうれしいことだなと思います。

左:やはりそこは事業を行っていくうえでもモチベーションの源泉になりますよね。加えて、どういう部分が変わるとより大きな変化を感じられるんでしょう。

松田:先日のある講演会で、参加者の方が真顔で「ヘラルボニーって、障害のある人たちのアートブランドだったんですね」とおっしゃった方がいたんです。その方は「障害」といった言葉がないから、シンプルにアートブランドだと思っていたそうで。その時はすごくうれしかったし新鮮でしたけど、そういうフラットな状態から接点が生まれるという部分に大きな可能性を感じました。

左:その人にとって、最初の接点が福祉でも障害者でもなく、アートだったということですか。そのような出会い方や入り口もあるのですね。

松田:そうなんです。それってつまり、私たち自身にも固定概念があったってことですよね。だからもっと純粋に魅力を伝えて良いんだ、福祉的な部分に捉われすぎなくて良いんだなと思えました。

左:ヘラルボニーとして目指しているゴールはどのようなものでしょうか?

松田:変わらずに目指していきたいのは、ブランドに対して憧れを持ってもらえるようになることです。障害のある方たちのイメージを本気で変えていこうと思った時に、たとえばクリスマスプレゼントで迷ったら、数ある大きなブランドの中の選択肢のひとつとして存在していたいですね。障害者の作品だからとか、商品化した背景ばかりを訴えるのではなく、ほかのものと同じように並んでいる状態を作っていくことが、本当の意味で障害のある方のイメージや概念を変えていくことに繋がるんじゃないかと。よりブランド価値を高めるということに注力していきたいと思っています。

左:障害を理由にしたり、会社の取り組みを美談で終わらせるのではなく、純粋にフラットに見てもらいたいということですね。

松田:はい。シンプルにそこをちゃんと軸としながらこれからも続けていきたいです。だからこそ、アウトプットの質やクオリティに妥協せず、時間をかけながらより良いものをちゃんと紡いでいかなければという思いです。

左:冒頭でお聞きした創業のお話に始まり、現在では日本スタートアップ大賞をはじめとする数々の賞を受賞されているわけですが、ウェルフェア(welfare=福祉)の領域で今現在感じられていることや今後についてのお考えを、最後にお聞きしたいです。

松田:実は、今回の取材の前日である3月21日は、「世界ダウン症の日」だったんです。創業初期のエピソードなんですけど、NHKのある番組で当社を取り上げていただき、それを見て知ってくれた視聴者の方から連絡が届いたことがありまして。その方は、お腹の中にいる赤ちゃんがダウン症であることが分かっていて、産まれてくる子や家族にとって、産むことが良いのかどうかをずっと思い悩んでいました。ただ、ヘラルボニーの活動を見て産むことを決めたという内容が書かれていたんです。

それを聞いた私たちは、うれしいという感情よりも、背筋が伸びる思いというか。この世に新たな命が芽生えたという大きな事実を前に、産まれてくるその子にとってより良い社会と手を差し伸べられる環境を作っていかなきゃいけないと強く思いました。私たちの活動には人の人生を変える力があるということ。それこそが強みであると同時に、社会に対する責任もあるのだと感じています。

左:その事実はとても大きいですね。皆さんの活動によって新たな選択肢が生まれたり、人生が変わったりする人がいるというのは本当に素晴らしいことですし、希望を持つ人たちは多いのではないでしょうか。ヘラルボニーの今後を引き続き楽しみにしています。

ギャラリーに展示された森啓輔氏「無償の愛-Love Story-」氏の前で

ヘラルボニーの公式サイトでは所属アーティストの作品とともにプロフィールも紹介しています。

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