誰もがエイジフリーでウェルビーイングに生きるために
現代の日本では少子高齢化が社会課題になっており、10年後には3人に1人が65歳以上になるといわれています。しかし「人生100年時代」ともいわれる現代において、60代・70代以降の方をまとめて「高齢者」「おじいちゃん・おばあちゃん」と呼ぶのには違和感があるように思います。
とはいえ、歳を重ねれば重ねるほど体が動きにくくなってしまうのも事実。実際、平均寿命がどんどん延びている中で、健康寿命との差は10歳ほどとされています。つまり、何かしら体に不調が現れてしまい、要介護になったり、自由に動けない期間が約10年も続くのです。
博報堂が以前おこなった調査(※)では、若い世代に比べ、シニア世代はウェルビーイング度が全体的に低くなるという結果が出ています。また、どんな瞬間にウェルビーイングを感じるかには、世代間ギャップがあるのです。
そんな現代の日本において、誰もがエイジフリーでウェルビーイングに生きるためには、何が必要なのでしょうか? 趣味を見つけること? 社会貢献をすること? いろいろな60代以上のアクティブな活動を継続している方たちに、お話しをお伺いしました。
みなさんに共通しているのは「若いうちから、自分の身体と向き合う習慣を持っている」「毎日、誰かと話しをしている」「どんどん、はじめてのことでも挑戦している」ということでした。そこには、いろいろなヒントがありそうです。
時には、テクノロジー技術の活用も必要になるでしょう。たとえばメガネも「体の不自由を補う技術」のひとつではないでしょうか。
Welluluの「エイジフリーのウェルビーイング特集」では、シニア世代をウェルビーイングにしていくサービス・テクノロジーを開発しているたくさんの方々にお話を伺いつつ、どんな生き方がエイジフリーなウェルビーイングなのかを、読者のみなさまと一緒に探求していきたいと思います。
手や足を自由に動かせなかったり、目や耳が不自由でも、自分がより良く生きていくために何ができるのかを考え、熱中できるものに出会い、生き生きと生きている方々はたくさんいらっしゃいます。2002年のロンドンで行われたパラリンピックでは、彼らを「スーパーヒューマン」と呼んでいました。誰もがお互いをリスペクトして、イキイキと暮らすことができるボーダーレスであり、エイジレスな社会が生まれていけばと思っています。
いずれは誰もが歳を取り、体に何かしらの不自由が生まれることを考えると、彼らは僕たちの“先生”とも呼べる存在だということを、スポーツ医学の先生に教わりました。同じように、いろいろな方が自分の今まで生きてきた経験を社会に還元するという視点が、最近はより一層生まれてきているように僕は感じるのです。そしてそれをより多くの方に知ってもらいたいという想いから、この企画をスタートしました。
本特集をきっかけに、シニア世代はもちろん、その子どもたち、孫たちがよりウェルビーイングな生活を送れること、「何歳になってもいつまでも元気。」が実現することを願っています。
エイジフリーのウェルビーイングに大切な3つの観点
エイジフリーのウェルビーイングについて、僕は、3つの角度から注目していきたいと思います。
1つ目は「身体の健康」です。
年齢を重ねていくと、ついつい健康の話ばかりになってしまいがち……。そんななか、僕は自分の身体こそが資本という考えのもと、身体の健康とも向き合っていきたいと思っています。自分のやりたいことができる環境をつくることで、ウェルビーイングな生活へとつながっていくのです。
やはり加齢と身体の不調は切っても切り離せません。歳を重ねれば、それだけ生活習慣病のリスクも高くなるし、何もしなければ筋肉も衰えていきます。とはいえ、歳を取って体に不調が出てから急に健康的になりましょう、というのは難しい話。だからこそ、30代、40代、50代をどう過ごすかが大事になってくると思うのです。
僕はもうすぐ50歳になりますが「自分は健康だから」とつい暴飲暴食してしまったり、運動をサボってしまったりします(3日坊主を何度経験したことか……)。でも、今の自分の過ごし方次第で加齢を少しでも遅らせることができるのだと気づければ、行動を変えようと努力することはできるはず。まずは、この「気づく」ことが重要だと思うのです。
身体の健康については、「30代だから間に合う」「60歳を超えたからもう遅い」というものではないと思います。誰にとっても、今この瞬間が「1番若い時」です。まずは今の自分の状態を知り、今の自分に合った生活習慣(食生活やトレーニングなど)を見つけることが大切なのではないでしょうか。食生活と合わせて、睡眠も大切です。そして休養を取って、自分の身体とどう向き合うかですね。
2つ目は、「はじめてをはじめる」ということです。
大人になると、これまで自分が経験していないことを始めるのが億劫になりがちです。何か新しいことに興味を持っても、「やったことがないから」「不器用だから」「失敗したら怖いから」「怪我をしてしまいそうだから」と踏みとどまってしまった経験はありませんか?
つい先日、70代の仕事を引退した方が、突然「俳優になりたい!」と思い立ち、実際に俳優に登録されたそうです。僕はその話を聞いて、素直に「かっこいい!!!」と思いました。
年齢に関わらず、ウェルビーイングに生きるためには新しい挑戦が欠かせないと僕は思います。挑戦することで、これまで出会ってこなかった人と出会ったり、新しい知識を身につけたりすることで、ウェルビーイングな生活につながっていくはずです。
「新しい挑戦」と聞くと、前述の彼のように大きな挑戦をしたり、新しいスポーツを始めたりするものだと思う方もいるかもしれません。しかし無理をして身体を壊してしまっては本末転倒です。
「観葉植物を買って毎日水をあげてみる」「腕立て伏せを5回習慣にしてみる」も、人によっては「はじめてをはじめる」ですよね。自分のできる範囲ではじめてみることが大切です。「やってみたいことを書き出す」だけでもウェルビーイングに1歩近づきますね。
ちなみに、僕の父は自炊をするようになり、料理を楽しんでいるようです。僕や孫たちが入っているコミュニケーションツールに、お弁当の写真を送ってきます。孫たちから「美味しそう!」と返事をもらって、とても嬉しいのだと思います。こういった何気ないコミュニケーションも、ウェルビーイングには必要不可欠です。
最後に「居心地が良い場所やコミュニティを持つこと」です。
冒頭でも紹介したウェルビーイングについての調査(実施:博報堂)によると、年齢を重ねるにつれて「社会貢献」「相互扶助」「感謝されること」にウェルビーイングを感じる方が多いことがわかりました。つまり、シニア世代は人と人のつながりによって自分が生きていることを実感するということです。
また、これはあくまでも僕の仮説ですが、孤独は加齢を加速させる気がしています。周りのシニア世代の方を見ても、趣味を語れる仲間がいたり、近所付き合いが活発だったりする人のほうがウェルビーイング度も高そうです。
実際、僕の母もさまざまな人との会話や食事を楽しんでいます。同じマンションの仲間とご飯に行ったり、電話でいろいろな人と話したりしているらしいです。
そんななか、どんなに年齢を重ねても、自分の価値観を押し付けてしまっては、周りのコミュニティは離れていくと思っています。もちろん自分が生きたいように生きることは大切ですが、それが周りの人のウェルビーイングを阻害してしまっては、結果的に自分もウェルビーイングから遠ざかってしまうのではないでしょうか? 自分の話をしつつも、周りの話もしっかり聴くこと、つまり「対話」が重要なのかもしれませんね。
コミュニティに参加したり、新しいコミュニティをつくったりするためには、自分から発信する必要があります。これは「“初めて”を始める」にもつながるのではないでしょうか。
これらが、僕が考えるエイジフリーのウェルビーイングに欠かせない3つの観点です。とはいえ、あくまでも今の僕の考えで、Welluluの読者のみなさまからの意見を取り入れながらアップデートしていきたいと思っています。
「死」と向き合うこと=「生きる」と向き合うこと
エイジフリーのウェルビーイングを考える上では、「死」に向き合うことも欠かせません。自分の死にしっかりと向き合うことは、すなわち「生きる」に向き合うことと同じだと僕は思うのです。
たとえば「人生の最後に食べたいものは?」という質問がありますよね。これと同じように、人間の五感すべてに問いかけてみてください。
「最後にどんな音を聞きたいですか?」「最後に何を見たいですか?」「最後に何を触りたいですか?」「最後にどんな匂いを嗅ぎたいですか」
これらについて考えると、自分が本当に大切にしている価値観に気づくはずです。これらの問いは、これからの人生をどう生きたいかを考えるきっかけにもなると思います。
そして自分の死と向き合うことは、家族や友人など周りの人を考えるきっかけにもなります。自分がいなくなって悲しんだり困ったりする人の顔が浮かべば、その人たちのためにもう少し健康に気をつけようとしたり、実際に行動に移したりすると思うのです。
僕の兄は、ずっと健康だったにも関わらず47歳の時に突然亡くなりました。当時、家族みんなが悲しむと同時に、すごく困ったことがあったんです。それは「デジタル遺産」の存在でした。銀行口座からはじまり、スマホやパソコンが開けないという問題があったのです。
特に離れて暮らしていると、家族がどんな暮らしをしているのか、ほとんどわからないですよね。家族や周りの人への愛があるからこそ、エンディングノートなどを使って「自分が生きた証」を残すことも大切なのではないでしょうか(「終活」というと「人生を終えるための活動」みたいなので、僕は「ウェルエンディング」という言葉を使っています)。
とはいえ、実際に寝たきりになってしまったり認知症が進んでしまってから、急に「死」と向き合うのは酷なことです。だからこそ、自分の体や頭を自由に使えるうちに「考える」を習慣化しておくことが、エイジフリーな生き方、よりウェルビーイングな生き方につながるのではないかと僕は思っています。
ボーダレス社会がエイジフリーのウェルビーイングを加速させる
現在の日本では、熟年離婚や生活保護、後継者不足など、シニア世代の問題をよく耳にします。そういった問題が次々と生まれてくることに辟易としてしまいがちな世の中ですが、僕は、その問題が生まれた時こそ「考える」チャンスだと思うのです。
「この問題はどうやったら解決するのだろう?」「みんながより楽しんで生きるためにはどうしたら良いのだろう?」
という問いが生まれれば、そこにウェルビーイング共創コミュニティが生まれます。
実際、いろいろな町でこうしたコミュニティが生まれつつあります。
先日、こども食堂を運営している湯浅誠さんにお話を伺う機会がありました。こども食堂は、子どもだけではなく、地域のおじいちゃんやおばあちゃんも頻繁に遊びに来るそうです。そこでは当然、年齢関係なくさまざまな会話が生まれているそうで、僕はこれこそがエイジフリーのウェルビーイングだと思いました。
これまで「子どものウェルビーイング」「おじいちゃん・おばあちゃんのウェルビーイング」と分けて考えてしまっていましたが、湯浅さんのお話を伺い、そもそも年齢で分けること自体がナンセンスだったのだと気づかされたのです。
こども食堂のように、年齢や性別を取り払ったボーダーレス社会が生まれることで、ウェルビーイングに生きる人がもっと増えていくはず。だからこそ「子どもだから」「高齢者だから」といったバイアスを取り除くことは、どんな世代にとっても大切ではないかと思います。
このように、僕はWelluluを通じてさまざまな方とお話しさせていただくなかで、多様な考え方に気づかされています。エイジフリーのウェルビーイングについても、まだまだわからないことや知りたいことがたくさんあるので、読者のみなさまと一緒に考えていきたいと思っています。
だから、「親との関係でこんな悩みがある」「こんな立場の人の話を聞いてみたい」など疑問や要望があれば、こちらまでご意見をください。
bettercobeing@hakuhodo.co.jp
みんなでエイジフリーのウェルビーイング社会を共創していきましょう。