
日常生活で使う機会が多い握力。握力は病気の指標にもなり、鍛えることで生活の質の向上や病気の予防にも繋がる。
この記事では、握力を鍛えることで期待できる効果や、おすすめのトレーニングメニュー・男女別の握力平均・測定器での握力の測り方を紹介。
この記事の監修者

和田 拓巳さん
スポーツトレーナー
握力は健康指標になる!
握力は維持されやすいのが特徴
一般的な筋肉は20歳頃にピークを迎えて、年齢とともに緩やかに低下していく傾向にある。
しかし、握力は他の筋肉とは異なる特徴を持っている。握力は20歳から上昇を続け、男性の場合は35歳頃、女性の場合は40歳頃にピークを迎える。
また、日常生活で手を使う機会が多いため、握力は自然と維持されやすく、高齢になっても他の筋肉ほど大幅に衰えることがない。
握力は病気のサインの可能性がある
握力は簡単に衰える筋肉ではないため、大きく低下した場合には体内で何らかの異常が起きている可能性がある。認知症・心疾患・糖尿病・うつ病などとの関連も報告されており、通常あまり落ちない握力が急激に低下したときは病気の兆候を示すサインとして役立つ。
さらに握力低下は生活そのものに直結するリスクを伴い、物を強く握れない、長時間持ち続けられない、細かい動作が難しくなるといった影響が出る。料理を作ってキッチンから運ぶだけで疲れてしまうような状況が生じる場合は注意が必要。
握力はどこの筋肉を使う?
- 深指屈筋(しんしくっきん)
- 浅指屈筋(せんしくっきん)
- 長母指屈筋(ちょうぼしくっきん)
握力は大きく分けて、「深指屈筋」や「浅指屈筋」などの4本の指(人差し指、中指、薬指、小指)を動かす筋肉群と、「長母指屈筋」などの親指を動かす筋肉群に分かれている。
深指屈筋(しんしくっきん)
主な役割 |
|
位置 | 前腕の尺側(小指側)深層に位置し、肘の近くから始まり、 手首を通って各指の末節骨まで腱が伸びる。 |
浅指屈筋(せんしくっきん)
主な役割 |
|
位置 | 前腕の中央付近の浅層にあり、肘付近から始まり、中節骨に腱が付着する。 |
長母指屈筋(ちょうぼしくっきん)
主な役割 |
|
位置 | 前腕の親指側深層にあり、前腕中央付近から始まり、親指の末節骨に腱が伸びる。 |

一般的に前腕の筋肉を意識的に鍛える人は少ない傾向にあります。大胸筋などの大きな筋肉と比較して、前腕の筋肉は日常的に注目されにくい部位といえます。
しかし、深指屈筋・浅指屈筋・長母指屈筋はすべて前腕から始まっており、前腕の屈筋群を鍛えることで 指を曲げる力(握力) が強化されます。加えて、前腕の筋持久力が向上すると、握力の持続力(物を長く持ち続ける力・ホールド力)もアップします。
握力の3つの種類
- クラッシュ力(握りつぶす力)
- ピンチ力(つまむ力)
- ホールド力(握り続ける力)
クラッシュ力(握りつぶす力)
役割・説明 | 手のひら全体と指を使い、物を強く握って押しつぶす力。 |
日常生活で使われる場面 | 鍋など固いものを握る ビンの蓋を開ける スポーツでグリップを保持する 雑巾やタオルを絞る |
鍛え方 | ハンドグリップ テニスボールやストレスボールを握る |
ピンチ力(つまむ力)
役割・説明 | 親指と他の指を使って物をつまむ力。指先の筋力を使う。 |
日常生活でのメリット | ペットボトルの蓋を開ける 書類や紙をつまみ上げる 料理で食材をつかむ ボタンを留める |
鍛え方 |
両手の指先を合わせるトレーニング 洗濯バサミをつまむ |
ホールド力(握り続ける力)
役割・説明 | 物を長時間握り続けるための持久力。握力を持続させる筋持久力の要素が大きい。 |
日常生活でのメリット | 買い物袋を長く持つ 鍋を持ち続けて運ぶ スポーツで器具を保持し続ける |
鍛え方 | 重りやダンベルを握って保持する |
握力を鍛えるメリット
日常生活の動作が楽になる
【意外と多い!握力がないと不便に感じること】
- ペットボトルの蓋が開けにくい
- 包丁やフライパンが重たく感じる
- ドアノブを開けにくい
- 買い物袋を持ち続けられない
- 雑巾を絞る力が弱い
- ハサミを使うと指が疲れる
日常生活では意識することは少ないが、様々な場面で握力が活用されている。
ペットボトルや瓶のフタを強く握って開けたり、雑巾を絞ったりする場面では「クラッシュ力」が役割を果たしている。洗濯バサミやクリップをつまんだり、鍵をつまんで回したりする場面では「ピンチ力」、料理中に重い鍋を運ぶ動作や、長時間物を持ち続ける場面では、「ホールド力」を使っている。
高齢になると箸を持つことも困難になる場合があるため、若いうちから握力を維持することは将来の生活の質を保つ上で重要になる。
スポーツのパフォーマンスが向上する
握力強化は、道具を使用するスポーツのパフォーマンス向上に直結する。ゴルフ・テニス・野球など、バットやラケット、クラブなどを使用して行う競技では、握力を鍛えると長時間の競技でもグリップ力が維持されるため、技術力が向上する。
またバスケットボールなどでも、ボールをしっかりとつかむ能力が向上し、ボールハンドリングの安定性が増す。
筋トレの効率がアップする
握力を鍛えることは筋トレの効率アップにつながる。
バーベルやダンベルなど重い重量を扱うトレーニングをおこなう場合、握力がないと前腕が先に疲れてしまい、筋トレで十分な負荷を与えられなくなる。
握力を向上させることで、より重いバーベルを保持できるようになり、メインターゲットとなる筋肉により集中して刺激を与えることが可能になる。

背中の筋肉や身体の後面を鍛えるトレーニングでは、必ず握る動作が必要になります。デッドリフト・懸垂・ラットプルダウンなどの引く系のエクササイズでは、握力がパフォーマンスに直結しています。
握力を鍛えたい場合はリストストラップを使わずにトレーニングをおこない、特定の筋肉に集中したい場合は補助器具を活用するという使い分けが効果的です。
リハビリや介護予防になる
加齢により心身が老い衰えた状態である「フレイル」を防ぐための手段の1つが握力。フレイルの代表的な指標は、「体重減少」「筋力低下」「疲労感」「歩行速度の低下」「身体活動量の低下」であり、3項目以上当てはまるとフレイルの可能性がある。
握力トレーニングはフレイルの予防として使われることもある。
体力が低下している高齢者や、身体が動かしにくい状況にある人にとって、握力トレーニングは有効な運動手段。
また、握力トレーニングは、運動習慣のない人にとっても取り組みやすい。スクワットなどの全身運動は効果的だが、運動経験のない人には負担が大きく感じられる場合がある。それに対して、握力トレーニングは座りながらでも実施でき、ながら運動としても取り組める。
指先には多くの神経が集中しているため、手を動かすことで脳への刺激も期待できる。
【自重】握力を鍛えるトレーニング3選
- グーパー運動
- 指ハイタッチ
- 指立て伏せ
グーパー運動
- .手を大きく開き、指をしっかり伸ばす
- 強く握り込む
- 動作を繰り返す
指ハイタッチ
- 両手の指先を合わせ、1本ずつ指同士をタッチする
- テンポよく繰り返し、指の独立した動きを鍛える

洗濯バサミを使ったトレーニングもおすすめです。
指立て伏せ
【やり方】
- 壁や膝立ちで腕立て伏せの姿勢を取り、手のひらではなく指先で支える
- 指への負担を考え、短時間から始める

指立て伏せは握力強化に効果的なトレーニング方法の1つです。しかし、怪我のリスクが高いため、通常の腕立て伏せの姿勢ではなく、壁を利用したり膝立ちの状態でおこなうのがおすすめです。
指への負担が大きいトレーニングのため、無理をせず段階的に取り組むことが重要です。
【器具使用】握力を鍛えるトレーニング10選
- ブックホールド
- 雑巾絞り
- 新聞握り
- ハンドグリップ
- パワーボール(リストボール)
- ゴムボール
- 懸垂
- リストカール
- ベントオーバーロウ
- ファーマーズウォーク
ブックホールド
【やり方】
- 厚めの本を縦に持ち、指先だけで挟むようにして保持する
- 可能な限り長く持ち続ける
雑巾絞り
【やり方】
- 濡らした雑巾を強く握り、左右交互に絞る
- 手首を内外にひねりながら行う
新聞握り
【やり方】
- 新聞紙を1枚手に取り、丸めて握り込む
- 片手ずつ行い、力を込めて小さく丸める
ハンドグリップ
【やり方】
- 手のひらでグリップを握り込み、できるだけ強く閉じる
- ゆっくり戻して繰り返す

ハンドグリップを使用する際は、できるだけ大きく手を広げてから握る動作をおこなといいでしょう。指先だけで小さく握るのではなく、手全体を大きく使って握る必要があります。
多くのハンドグリップには負荷調整機能が付いており、調整ネジを回すことで握る幅を変えて負荷を調整することができます。
また、ハンドグリップは握り方を変えることで負荷を調整することも可能です。指の本数を変えたり、握る位置を工夫したりすることで、さまざまな強度でトレーニングをおこなうことができます。
パワーボール(リストボール)
【やり方】
- 付属の専用紐をローター(内部の回転部分)の穴に差し込む
- 紐をローターに数回巻き付ける
- 紐の端を強く引っ張り、ローターを勢いよく回転させる
- パワーボールを握り、手首を小さく円を描くように動かして回転を保つ

パワーボール(NSDスピナー)は、内部の重い球体が遠心力で回転する器具です。回転する球体を制御するために握力を使うことで、さまざまな角度から前腕と握力に刺激を与えることができます。
持っているだけで内部が動き続けるため、それを制御することで自然と握力が鍛えられる仕組みになっています。外国製の類似品も多く存在するため、購入時には信頼できる製品を選ぶことが重要です。
ゴムボール
【やり方】
- ゴム製のボールを手のひらで握り込み、力いっぱい潰す
- 数秒保持してゆっくり戻す

ゴムボールを使ったトレーニングは、動かせばクラッシュ力、動かさずに握り続ければホールド力として活用できます。自分の力の入れ具合によって負荷を調整できるため、やる気に応じてトレーニング強度を変えられる利点があります。
ハンドグリップと比較すると、ゴムボールは負荷が固定されていないため、運動習慣を作る上で取り組みやすい特徴があります。気分転換としても活用しやすく、継続しやすいトレーニング方法といえます。
懸垂
【やり方】
- バーを握り、体を引き上げる
- 握力を意識しながら、できる回数繰り返す

懸垂は背中を鍛えるエクササイズですが、自分の体重を支えるため握力トレーニングとしても活用できます。握った状態で維持し続けることで、ホールド力の向上が期待できます。
懸垂ができない場合でも、バーにぶら下がるだけで十分な握力トレーニング効果を得ることができます。握り方を変えることで、異なる角度から握力を刺激することが可能です。
リストカール
【やり方】
- ダンベルを手のひら上向きで握り、手首を曲げて上下させる
- 前腕を太ももやベンチに固定して行う

ジムではリストカールやプロネーションなどの前腕トレーニングも握力強化に効果的です。特に握力を集中的に鍛えたい場合は、前腕の屈筋群を重点的に刺激する種目を取り入れるのがおすすめです。
負荷は15〜20回程度できる重量を選び、限界近くまでおこなうことがポイントです。無理だと感じるくらいの強度で取り組むことで、筋肉にしっかり刺激を与えられます。
ベントオーバーロウ
【やり方】
- バーベルやダンベルを握り、上体を前傾させて胸に引き寄せる
- 握力を保ちながら背中を意識して引く

ベントオーバーロウは背中を鍛えるトレーニングですが、ベントオーバーロウやデッドリフトなど、高重量のバーベルを持ち続けるタイプのトレーニングも、ホールド力を鍛えることができます。全力で握った状態を維持するだけでも、十分な効果を期待できます。
ファーマーズウォーク
【やり方】
- ダンベルやケトルベルを両手に持ち、姿勢を正して歩く
- 握力が限界になるまで歩き続ける

握力に関わる筋肉はそれほど大きくない筋群のため、高重量で少ない回数をおこなうよりも、中程度の負荷で適度な回数を行う方が効果的です。
軽い重量でも十分な効果を得ることができ、例えば10キロのダンベルを20回程度持ち上げる動作でも、握力には相当な刺激を与えることができます。重量よりも持続時間や動作の質を重視することが、効果的な握力強化につながります。
【握力トレーニングのポイント】
握力のトレーニングは、目的に合わせて方法を変えることが大切。
- クラッシュ力(握り潰す力)を鍛えたい場合はハンドグリップを使って握る動作を繰り返すトレーニングが効果的
- ピンチ力(つまむ力)を鍛ええたい場合は指ハイタッチなどが有効
- ホールド力(握り続ける力)を鍛えたい場合は懸垂でぶら下がり続けたり、ダンベルを持ち続けたりするトレーニングが効果的
握力測定器の使い方・測り方
※以下で紹介するのは、「スメドレー握力計」を使った計測方法です
【測り方】
- 指針が外側になるように持つ
- 直立の姿勢で腕を自然に下げる
- 握力計を力一杯握りしめる
- 反対側の手も実施する
STEP1:指針が外側になるように持つ
STEP2:直立の姿勢で腕を自然に下げる
STEP3:握力計を力一杯握りしめる

握力測定では正しい姿勢でおこなうことが重要です。勢いを使ったり、身体に近づけすぎたりすると、正確な数値を測定できない場合があります。
測定の目的は他人との比較ではなく、自分自身の変化を追跡することにあります。定期的に測定を行い、握力の推移を記録することで、トレーニング効果や体調の変化を把握することができます。
【男性・女性】握力の平均
日常生活の中で手を使う場面が多く、握力は自然と維持されやすい筋力である。
一般的に筋肉量は20歳前後がピークであるのに対して、握力は20歳以降も向上を続けるという特徴がある。高齢になってからの衰えも他の筋肉ほど顕著ではない。
【男性】握力の平均値
年齢 | 男性平均 |
20〜24歳 | 44.11kg |
25〜29歳 | 45.60kg |
30〜34歳 | 45.67kg |
35〜39歳 | 46.28kg |
40〜44歳 | 45.78kg |
45〜49歳 | 45.30kg |
50〜54歳 | 44.31kg |
55〜59歳 | 43.41kg |
60〜64歳 | 41.94kg |
65〜69歳 | 39.36kg |
70〜74歳 | 37.50kg |
75〜79歳 | 35.07kg |
【女性】握力の平均値
年齢 | 男性平均 |
20〜24歳 | 26.84kg |
25〜29歳 | 27.66kg |
30〜34歳 | 27.78kg |
35〜39歳 | 28.13kg |
40〜44歳 | 28.16kg |
45〜49歳 | 27.84kg |
50〜54歳 | 27.05kg |
55〜59歳 | 26.08kg |
60〜64歳 | 26.08kg |
65〜69歳 | 25.08kg |
70〜74歳 | 23.75kg |
75〜79歳 | 22.80kg |
※スポーツ庁(2023)「体力・運動能力、運動習慣等調査 報告書 Ⅲ 統計数値表」を参考
握力の鍛え方に関するQ&A
握力トレーニングは毎日おこなってもよい?
A.握力に関わる筋肉は比較的小さな筋群のため、毎日トレーニングをしても問題ない。

超回復の観点から休息を重視する大きな筋肉とは異なり、握力トレーニングでは負荷がそれほど高くならないため、継続的に実施することが可能です。
ただし、筋肉痛が出るような場合は無理をせず、痛みが治まるまで休息を取ることが重要です。特に最初のうちは筋肉痛が生じる可能性があるため、体調を見ながら調整する必要があります。
握力が弱い原因は何?
A.握力低下にはいくつかの要因がある。

遺伝的な筋肉の質や骨格構造による個人差、加齢による自然な筋力低下は避けられないものです。また、日常的に手を使う機会が少ない生活習慣や職業も影響します。
一方で、急激な握力低下には注意が必要です。脳疾患や関節・神経の障害、さらに腱や関節の炎症が原因となることがあります。
ハンドグリップとダンベル、どちらが効果的?
A.握力強化ならハンドグリップなど握る動作がいい

ダンベルを使ったトレーニングはホールド力を鍛える点では効果的ですが、握力強化を主目的とする場合は、直接的に握る動作の方が適しています。握力を集中的に鍛えたい場合は、握力専用のトレーニングをすることが推奨されます。
プロスポーツトレーナーとして23年の経験を持ち、プロアスリートやオリンピック候補選手、アーティストなどのトレーニング指導・コンディショニング管理・リハビリを担当。子どもから高齢者まで幅広い層に指導を行う。医療系・スポーツ系専門学校での講師や健康・トレーニング関連の講演も多数実施。