コニカミノルタ×宮田裕章教授の共創プロジェクト「AIパートナー構想」が創り出す、AIで人を支える新たな社会

コニカミノルタが「AIパートナー構想」で目指す新たなAIの姿

宮田：コンピュータはかつて、プログラミング言語を理解できる人だけが扱えるものでした。しかしApple社が直感的なUIを実現したことが転機となり、誰もが扱えるものへと一気に普及させました。

生成AIの登場は、システム開発の世界でも「民主化」を引き起こしています。 かつては専門家の領域だった開発が、今や誰もが「作り手」になれる時代へと移行しつつある。こうしたユーザー主導の「共創」コミュニティこそが、新しいイノベーションを生み出す力を持つと確信しています。

コニカミノルタとの共創プロジェクト「AIパートナー構想」は、このような背景からスタートしたプロジェクトですね。

一色：はい。「AIパートナー構想」では、AIを「人に寄り添い、成長を支援する存在」として位置づける取り組みです。宮田さんが言われたように、AIが身近になった今、人々は単に便利なツールではなく、“信頼できる相談相手”を求めるようになっていると感じます。

情報があふれる社会だからこそ、自分を理解し、支え、共に歩んでくれる存在が必要です。私たちは、その伴走者となる役割を担うのが「AIパートナー構想」だと考えています。

宮田：生成AIの進化の過程において、「メモリ機能」の拡張はその能力を飛躍させる大きな分岐点でしたね。AIがユーザーとのやり取りから学び、重要な情報を記憶するようになったことで、よりパーソナライズされた対話が可能になりました。

それまでは誰に対しても同じように対応する“優等生”でしたが、現在ではその人の背景を踏まえて語りかけてくれる。AIが「自分を知ってくれている」と実感できるようになったことは、とても大きな変化です。

AIがユーザーとの記憶や経験を積み重ねていくことは、私が提唱する「Better Co-Being（共により良く生きる）」という考え方にも通じます。AIはもはや単なる道具ではなく、人生を共に歩み、その深まりを助けるパートナーとなる。そんな未来が現実味を帯びてきましたね。

一色：「AIパートナー構想」は、対話を蓄積・整理し、その人に合った提案を行う存在です。たとえば、「今どんな勉強をすればいい？」と尋ねれば、過去の会話や学習データをもとに「以前こういう人間になりたい・こういう仕事につきたいと言っていたから、今はこれを学ぶといいよ」と提案してくれるわけです。

それが、まさに“寄り添いながら伴走してくれるAI”の価値なのです。

宮田：寄り添うとは、単に心地よい答えを返すことではありません。極端な例ですが、アルコール依存の人に「おすすめのお酒」を教えるのは一見親切でも、健康を損なう可能性があります。

「AIパートナー構想」に求められるのは、一人ひとりの多様な価値観や状況を理解した上で、本当にその人に必要な提案をしてくれること。そうした倫理的な寄り添いが、これからのAIの本質的な価値となって、社会やサービスを大きく変えていく鍵になると感じています。

「人に寄り添うAI」とは？ 共に成長する“伴走者”としての進化

宮田：ここからは、AI＆テックリードの大竹さんに「個人に寄り添い・支援するAI」とは、どのようなものなのかを詳しく伺っていきます。

大竹：「AIパートナー構想」のコンセプトは「人に寄り添う」ことですが、その“寄り添い方”こそが最も重要だと考えています。

パーソナライズによってユーザーに最適なものだけを提供してしまうと、先ほどのアルコール依存の例のように、「自分にとって都合のいい情報」ばかりを与え続けるリスクがあります。

宮田：確かに、近年ではAIとの対話によって、肯定的な言葉ばかりを受け取り、結果的に視野が狭くなるケースも見られます。いわゆる「エコーチェンバー現象」ですね。同じ意見の中で安心してしまうことで、それがあたかも世の中の常識のように思い込んでしまう。

大竹：おっしゃるとおりです。「AIパートナー構想」を開発する上で、ユーザーに「気づき」や「学び」をどう与えるかは大きな課題です。本当の意味で人の成長を支えるAIをつくるためには、このテーマから逃げることはできません。

宮田：「AIパートナー構想」は単なる支援ツールではなく、人との関係性そのものを設計しているように感じます。「AIパートナー構想」の特徴をもう少し詳しく教えてください。

大竹：おっしゃる通り、「AIパートナー構想」はユーザーの“代わり”を務める存在ではなく、継続的な対話を通じてユーザーと共に目的や価値観を築き、必要なアクションを共に考え、実行していく伴走者です。

教育分野の例を挙げると、AIに質問をした際に的外れな回答をしたとき、「もう一度考えてみましょう」と問い返すことで、思考を促すようなやり取りができるようになっています。
また、学習ログや過去の取り組みを踏まえて、AIが「よく頑張りましたね」「ここをもう少し伸ばしましょう」といった、一人ひとりに寄り添う温かみのあるフィードバックを返すことも可能です。

実際、「人間の教師よりも、AIの方が自分をよく見てくれている」と感じる利用者もいるほどです。

宮田：どんなに優れたマネージャーでも、評価にはどうしても自分の価値観が反映されてしまいます。プロセスをデータとして可視化し、客観的な視点で評価や励ましを行うAIの方が、人の成長を支える場面もあるのかもしれませんね。

大竹：さらにAIは「なぜ良いのか」「なぜ悪いのか」を言語化するのが得意です。膨大なデータをもとに、評価の根拠を丁寧に言葉にすることができる。それが人の理解を深め、次の行動を導く力になります。

宮田：今のお話を聞いて改めて感じるのは、「評価する側」を評価する仕組みがこれまで存在してこなかったということです。

人を評価する立場にあるマネージャーや教師にとって、「評価の仕方」は部下や生徒を育成する重要なスキルです。AIの力を借りれば、評価する側のマネージャー自身の成長を支援するシステムもつくれるかもしれません。

大竹：それは非常に興味深い視点ですね。最終的には、AIが感情や人格を備えた「もう一人の存在」として認められるようになれば、まさに自身のパートナーとして個に寄り添い、誰よりも信頼できる存在になれるかもしれませんね。

「教える存在」から「導く存在」へ。AIが人を支える新たな社会

宮田：ここからは「AIパートナー構想」の未来について伺いたいと思います。「AIパートナー構想」は今後、どのように進化していくとお考えですか？

一色：私たちは、「AIパートナー構想」が提供する価値を3つの段階で整理しています。

1つ目は「Serve」。人に尽くし、サポートする存在。

2つ目は「Teach」。知識や答えを教えてくれる存在。

そして、3つ目が「Coach」。その人の課題に向き合い、自分自身の目的を見出せるように伴走してくれる存在です。

この3段階のうち、「AIパートナー構想」を真のパートナーと呼べるのは、最後の「Coach」の段階に到達したときだと考えています。

宮田：つまり、AIが単に答えを与えるのではなく、「人生の可能性を開くための問い」を一緒に立ててくれるパートナー的な存在になるということですね。

一色：はい。スキルアップを支援するだけでなく、「あなたなら、この場所に行けば新しい発見があるかもしれません」といったように、行動を促す提案ができるのが理想です。人の成長や創造性を引き出し、次の一歩を後押しできるAIこそ、私たちの目指す最終形だと考えています。

宮田：「AIパートナー構想」は今後、“グループウェア”のように進化していくと考えています。個人に寄り添うだけでなく、コミュニティや組織そのものに寄り添うAIが生まれるのではないでしょうか。

たとえば「Wellulu」というメディアの理念に寄り添い、人々のウェルビーイングを支援するAIを構築する──そんな未来も想像できます。

一方で、個人最適が進み過ぎると、社会的な分断を生むリスクもあります。先ほどのエコーチェンバー現象への対処も、「AIパートナー構想」が果たすべき重要な役割のひとつです。ときには叱りながら導くように、AIも「世の中にはこんな考え方もあるよ」と視野を広げてくれる存在であってほしいですね。

多様な価値軸を内包したAIこそ、これからの時代に必要とされる存在なのではないでしょうか。

一色：まさにその考え方は、「Coach」の役割にも通じます。人の可能性を広げるためには、あえて本人が選ばないような選択肢を提示することも大切です。「AIパートナー構想」が意図的に“未知の選択肢”を提案することで、ユーザーは自分の思考を省みるきっかけを得られます。それが、新しい気づきや成長へとつながるのです。

宮田：確かに、人は新しすぎるものには不安を感じ、知り尽くしたものには退屈を覚えるものです。その日の気分や状態に合わせて、ユーザーに最適な刺激を与えられる「AIパートナー構想」であれば、学びも体験も常に新鮮なものとして積み重ねていけるでしょう。

宮田教授との共創PJ「AIパートナー構想」へのお問い合わせはコチラ

「共創」で未来を拓く。コニカミノルタと共にAIを活用し社会課題を解決する「共創パートナー」を募集

一色：私たちが現在進めているAI SaaS事業は、教育環境の整備や、多様な人がそれぞれの強みを発揮できる社会を実現するための取り組みです。しかし、これはあくまでその一部に過ぎません。プロダクトを導入しただけで社会課題がすぐに解決するわけではないと思っています。

私たちが掲げる「AIパートナー構想」を本当の意味で社会に根づかせていくためには、同じ志を持つ仲間が必要です。企業・自治体・教育研究機関や専門家など、広く共感の輪を広げながら、共に社会課題の解決を目指してくださる「共創パートナー」を探し求め、募集しています。

宮田：共創を進めるうえで、2つ重要なキーワードがあると考えています。

1つ目は、これまでの社会を創ってきた「競争」から「共創」への転換です。

かつては食料や石油などの有限な資源を奪い合う“競争の時代”でしたが、今は社会の構造が変わりつつあります。再生可能エネルギーやデータのように、共有することで新たな価値が生まれる“共創の時代”へと移行しているのです。

2つ目は、「共通の未来」に向けてどんな価値を共に創り出せるか、という視点です。

デジタル技術の進歩により、ウェルビーイングやコミュニティ、学びといった、従来は「見える化」が難しかった価値が可視化され始めました。これは、私たちが共通の目標を持ち、共に歩むことが可能になった新時代を迎えたことを意味しています。

この2つの変化が重なった今、社会はまさに「共創」を必要としていると感じています。

一色：大阪・関西万博でも、市民や来場者の参加によって大きなムーブメントが生まれました。人とデジタルとの融合が、これからの社会を動かす大きな力になると実感しています。

宮田：「AIパートナー構想」も同じですね。多様なユーザーのデータや体験が集まることで、AIの価値は磨かれていきます。これもまさに「共創」のかたちです。

異なる視点が交わることで、多様な人々に寄り添えるAIが育っていく。AI分野における共創とは、プロダクトを完成させることではなく、体験そのものを共に磨き続けることだと思います。

一色：もしコニカミノルタだけがデータを囲い込んでしまえば、多くの共感は得られず、価値も限定的なものになってしまいます。だからこそ、オープンに共有し、互いの知見を活かし合うことが重要だと考えています。

私たちは現在、教育やコミュニケーションの多様性の領域に注力していますが、これらにとどまらず、社会課題の解決に挑むあらゆる方々と共に、新たな領域での共創を広げていきたいと思っています。

「AIパートナー構想」を社会全体で育て、より良い未来へとつなげていく。それが、私たちの次なる目標です。

宮田：本日は、多くの示唆に富むお話をありがとうございました。「AIパートナー構想」は、単なる技術の進化ではなく、「人とテクノロジーがどう共に生きるか」という問いへの挑戦でもあります。テクノロジーが、人と社会の間に温かい循環を生み出し、誰もが自分らしく輝ける未来へと導いていく。その進化を、私も心から楽しみにしています。

＜関連記事＞

AIで人を支え、社会課題を解決する。コニカミノルタが挑む「新しい価値の創造」とは